第2回増えた「御用コメンテーター」と動かぬテレビ局 大谷昭宏さんの嘆き
ジャーナリストの大谷昭宏さん(77)は、2016年に当時の高市早苗総務相が、政治的公平を求める放送法4条に放送局が違反したと判断した場合の電波停止(停波)に言及した際、金平茂紀さん、青木理さん、鳥越俊太郎さん、故・岸井成格さん、田原総一朗さんとともに「私たちは怒っている」との声明を出した。高市氏が新たな放送法の解釈を示す前の時期に、官邸とやりとりした経緯を記したとされる総務省文書を読んだ大谷さんは、それ以前から個別の番組が狙い撃ちされていたと感じていた。そして放送局もそれに呼応するように「用心棒」を起用し始めた、と指摘する。(以下、肩書はいずれも当時)
放送局の番組編集について放送法が定める「政治的公平」。その解釈に追加を求め、安倍政権当時の礒崎陽輔首相補佐官が総務省とやりとりしていた経緯を記したとされる行政文書の存在が明らかになった。文書から見えてくる解釈追加の経緯や狙い、そして政治と放送の関係について、どんな問題があるのか。各界の識者に聞いた。
――16年の「停波発言」後に抗議アピールをしました
金平さんの呼びかけで行動に移した。「NEWS23」(TBS)でアンカーだった岸井さんが一番危機感を持っていた。降板が決まり、包囲網が迫っていると感じていたから。
ただ、あのアピールをした人間でも、官邸があんなに強引に総務省に迫り、解釈を変更させていたなんて当時は知らなかった。
――テレビ局側の忖度(そんたく)や萎縮は感じていましたか?
うーん。忖度、萎縮は非常に微妙な問題なんですよね。結局我々のようにコメンテーターとして慣れていると、なんとなく局が考えていることとか、風を読んでしまう部分もありますから。しかし、あの時代からすでに、局全体の番組で政治的公平性を評価するなんてことはなくなっていた。確実に一つずつの番組ごとにやられているなというのは感じていた。
――それは、どのタイミングで?
衆院選前の14年11月に自民党が萩生田光一・筆頭副幹事長、福井照・報道局長の連名の文書で、NHKと在京民放5局に選挙報道の「公平中立」を要請した、いわゆる「萩生田文書」の時からです。
以降、放送局は配慮を始めて、具体的な選挙報道について及び腰になった。例えば05年に小泉純一郎首相が郵政民営化関連法案の是非を問うた衆院選で「この選挙区の刺客(法案に反対した自民系議員の選挙区に政権側が擁立した候補)はこういう人です」などと細かく報道していたが、それはもう無理だという判断になった。そのうえ、選挙期間中の報道は避けるというスタンスになってしまったのです。今は、投票が終わってから注目選挙区はどうだったかなんてやってるけど、それは本来選挙期間中にするから投票の参考になるわけでしょうし、みんな興味があるわけでしょう。
「準選挙期間ですから発言に気をつけて」
――情報番組でのコメンテーターとしての仕事の内容も変わりましたか?
あれ以降、局は選挙が始まる1カ月とか1カ月半ぐらい前に、我々コメンテーター陣に「準選挙期間ですから、発言に気をつけてください。クレームをつけられますから」と言ってくるんです。「え? まだ1カ月以上あるじゃないか?」と言っても「準期間に入りましたから」と釘を刺すようになった。
その一方で、具体的にどんなことがNGだ、とは言ってこないんですよね。そしてもちろん、いよいよ告示・公示になれば選挙期間中ですから、もっと何も言えない。
大谷さんは「停波発言」のころから、テレビ局のコメンテーター起用に変化を感じ始めたといいます。「一つの番組で政治的公平性が判断される」と放送局が警戒し、起用するようになったのは――。
――そういうことを局側から言われると、コメンテーターとしては意識せざるを得ないのでしょうか?
そりゃ、やっぱりそうなって…
- 【視点】
今、話題の「放送法の解釈変更問題」、というより、「旧安倍政権による放送への政治介入問題」。大谷さんによれば、2014年11月に自民党が、NHKと在京民放5局に、選挙報道の「公平中立」を要請した「萩生田文書」の時から既に始まっていたという。
- 【視点】
この大谷さんの記事は当時のテレビ局の空気や実情、出演者側の心情を本当によく伝えていると思います。同時期にいた私もそうだったと思い起こすことがとても多かった。今回一連の国会でのやりとりが行なわれている時に、ある政治家から「あれ(放送法の解釈追

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