リニア残土受け入れ 懸念消えぬままフォーラム終了 岐阜・御嵩町

保坂知晃 編集委員・伊藤智章
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 岐阜県御嵩町リニア中央新幹線のトンネル工事に伴う残土の受け入れ計画を巡り、町主催の公開フォーラムが21日、開かれた。この日は予定した全6回の最後の会合で、JR東海が計画について改めて説明した。受け入れ候補地の地元住民らが反対の決議を読み上げるなど、懸念の声は収まらなかった。

 渡辺公夫町長は終了後、報道陣の取材に「結論を出せればいいと思っていたが、出せる状態に至らなかった」と話した。

 JRの担当者は「住民にまだ理解をいただいていないことはわかった。今後の進め方は町と相談したい」と述べた。現在の予定では掘削が始まり、残土が出るのは1年後という。

 渡辺氏は今期限りでの引退を表明しており、6月20日告示、25日投開票の町長選で選ばれる新町長に判断が委ねられる。町はフォーラムで積み残した疑問や懸念点についてJRと協議を続ける。

 フォーラムは、JRと町の協議を住民に公開し、受け入れ計画への理解を深めてもらおうと、昨年5月に始まった。各回でテーマを決め、重金属を含む「要対策土」の封じ込め対策や盛り土の安全性、環境への影響などが議論になった。

 一方、JRや町の説明には、参加者から批判的な意見が相次いでいた。

 この日も、受け入れ候補地がある上之郷地区の全16自治会でつくる「上之郷地区リニアトンネル残土を考える会」が、要対策土の持ち込みに反対する決議書をフォーラムで読み上げ、渡辺氏とJR側に提出。計画の白紙撤回を求めた。

 決議書は、要対策土を遮水シートで封じ込めるというJRの工法について、「危険物に変わりない」とした上で、「その盛り土が崩れないとは保証できないので、危険物は置かないのが最良の対策だ」とした。安全面の不安に加えて、候補地に含まれる国選定の重要湿地の保全もその理由に挙げた。

 考える会の纐纈(こうけつ)健史会長(71)は取材に、「渡辺町長が結論を先送りするなら、選挙後の新町長に状況の打開を期待するしかない」と話した。

 残土受け入れには、町有地の売却や借地について町議会の議決や同意が必要になるほか、環境保全や盛り土など県条例にもとづく手続きも必要になる。(保坂知晃)

     ◇

 岐阜県御嵩町のフォーラムは、地元住民らが反対決議を読み上げ、全6回の会合が終わった。リニア残土を受け入れるのかどうか、町の最終判断は6月の町長選後となる。紛糾のタネを残したままだ。

 渡辺公夫町長は退任するが、混乱収拾には、2021年9月に唐突に表明した「受け入れを前提としたJRとの協議入り」方針を撤回し、まず住民との対話を尽くすべきではないか。

 フォーラムは、町とJRの協議を公開し、住民の理解を得る狙いで昨年5月から始まった。ウラン鉱床や地下水に詳しい専門家らも同席。毎回3時間前後に及び、資料や詳細な議事録もオープンにした。ほかの自治体にはない取り組みだ。

 だが、この日も会場からは、「町長はなぜ、突然『消極的賛成』を言い出したのか」などと不信の声が相次いだ。渡辺氏は終了後、「(反対の)同じ人ばかりが来る」とこぼしたが、候補地が国の重要湿地に含まれることを昨年11月まで伏せていた。そうした町の姿勢が、反発を広げたことを顧みるべきだ。

 この町は、産業廃棄物処分場受け入れの是非を問う1997年の住民投票の時は、当時の町長が住民説明会を行脚。受け入れのメリットやデメリットを自ら説明し、判断を求めた。

 今回も本来、もっと自らの言葉で語るべきだった。だが、渡辺氏は「専門知識がない」と専門家やJRに説明役を任せた。「受け入れ前提の協議」という姿勢が町を縛り、住民の不信を買ったのではないか。

 6月に町長選と町議選を迎える。だが、中途半端な議論のまま、選挙で決着をつけられるものでもないだろう。先送りせず、住民対話に取り組むべきだ。(編集委員・伊藤智章)

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