あえて「売らない」ビジネスを MISIAの五輪ドレスに宿る信念
テレビに映ったドレスを見た瞬間、ぶわっと鳥肌が立った。絶対トモさんだ。
2021年7月23日、東京五輪2020の開会式。歌手のMISIAがカラフルなドレスをまとい、国歌を独唱していた。
その前年、気鋭のデザイナーを取り上げる取材で初めてインタビューしたのがトモさんだった。取材が終わるころ、「五輪でも何かできたらいいな」とぽつり。ぜひ見たい、と記事にも盛り込んでいた。
トモさんのインスタをみると「100%を出し切るのみ」と投稿されていた。五輪の文字こそなかったものの、あのドレスはやはり「トモ・コイズミ」のデザイナー・小泉智貴(ともたか)が手がけたものだった。
ピンク、青、緑、黄色……。30色ほどのグラデーションで彩られたドレスからは、性別や世代も国境もない、多様性への希望が伝わった。
でも、トモさんが込めたものはきっとそれだけじゃない。
大学在学中にブランドを立ち上げたのが2011年。衣装デザイナーとして着実に力をつけた。8年後、SNSを通じて英国の著名スタイリストに見いだされNYコレクションデビュー。「シンデレラストーリー」「アメリカンドリーム」などと話題になった。昨年はフィギュアの鍵山優真選手に衣装を提供。そして今季、ミラノとパリのコレクションにまで進出した。
ビジネスの幅が広がっていくなかで、ブランドの唯一性を維持するには? 渡欧を前にそう聞いて返ってきたのは、顧客ニーズやマーケティングが重視されるビジネスの常識とはかけ離れた、意外な言葉だった。
トモ・コイズミは世界的なブランドとのコラボを重ねています。でも「いつでも買える」「量産型の」市販品はありません。「マーケティング脳はいらない」というデザイナーのブランド力を高める理由に迫ります。
「売り手が優位に立てるよう…
- 【視点】
無観客にて開催された東京2020オリンピック開会式。その式典のクリエイティブに携わった者の1人として、トモコイズミのドレスを纏ったMISIAさんが国立競技場に颯爽と登場し、鷺巣詩郎さん編曲による「君が代」を見事に歌い上げた瞬間、式典のクリエ