第12回「穴」が多かった情報、無批判に消費したメディア イラク戦争の学び
イラク戦争では、開戦に至る根拠ともされた大量破壊兵器(WMD)に関する情報について、収集する過程での問題点や分析の誤りが露呈した。信頼が失墜した情報機関には、何が教訓として残されたのか。オランダのライデン大学安全保障・グローバル問題研究所のトーマス・マグワイヤ助教授に尋ねた。
――イラクへの武力行使を促す結果となった米英の情報機関に、どのような誤りがあったのでしょうか。
まず、WMD開発計画についての情報収集に、非常にむらがありました。集めた情報にはたくさんの「穴」があり、正確で信頼できる情報がなかった。戦争の正当化の一部として使われた情報には、まったくの捏造(ねつぞう)もありました。
例えば、「カーブボール」の暗号名で知られる人物が最たる例です。彼はドイツに亡命したイラク人でした。自分を重要人物に見せかけることで利益を得ようと、イラクのWMD計画について自分が持っているという情報をドイツの情報機関に伝え、それが米英にも伝えられました。
イランがアフリカからウランを入手しようとしたとか、ウラン濃縮用のアルミ管を購入しようとしたなどの情報も、イラクが核兵器計画を進めていることを示唆するものとして扱われました。こうした非常に弱い情報から導き出された結論に、米国でも英国でも、皆が同意していたわけではありません。
しかし、最終的な情報の評価は、すでに下されている政治決定を正当化するための証拠を見つけるという、政治的な圧力のもとで行われたのです。
マグワイヤ助教授は米国の分析担当者に「イラクに対する思い込み」があったといいます。問題は何だったのか。記事後半ではメディアに問われる役割について指摘しています。
フセイン氏が欺瞞に満ちていた理由
――圧力にはあらがえなかっ…