カンサイのカイシャ ここがオモロイ!
事故や病気で脳に損傷を受け、意思の疎通が難しくなった人も自分の思いを伝えられるように――。大阪のある企業は、体をほんの少しでも動かすことができれば言葉を紡げる装置を開発しました。きっかけは、病気で亡くなった父の最期でした。
思い通りに動かない体に精いっぱいの力を込める。左手の親指と人さし指の間に挟んだスイッチを、数十秒かけてなんとか押し込む。ゆっくりと、1文字ずつ。ベッド脇のモニターに文字が並んでいく。
「に け さ た き」
兵庫県加古川市の菊池蒼磨さん(23)は、中学1年の冬、自転車に乗っていて車にはねられ、脳を損傷した。自力での移動や食事、意思の疎通ができない「遷延性意識障害」と診断され、いまも寝たきりの状態が続いている。
モニターがついた装置は、あかさたな……の順に文字盤が光り、音声が鳴る。自分の止めたいところでスイッチを押すと、次はあいうえお……と母音の順に動く。またスイッチで止めて文字を打つ。
蒼磨さんはこの日、1時間ほど練習をしたが、まだ思い通りに操作できず、意味のある言葉にすることはできなかった。
でも、文字の羅列のなかに、たまに「おかあ」と交じることがあるのだという。母の佳奈子さん(51)に呼びかける言葉だ。
もう一度、思いを伝えたい、思いを知りたい――。「ファイン・チャット」は、そんな願いをかなえるための意思伝達装置だ。
大手電機メーカーを独立、きっかけはALSだった父の最期
開発したのは、大阪府茨木市のアクセスエール。大手電機メーカーで働いていた松尾光晴さん(57)が独立して一人で起こした。
松尾さんの父は難病のALS…