A-stories 家族に知られたくなかった… 生活保護と「扶養照会」
電話は、実家に住む高齢の母親からだった。
男性は、20代後半で栃木県内の実家を離れ、東京に出た。
親元を離れて数年。30代半ばになっていた。母親とは、たまに電話で話す程度で、疎遠になっていた。
電話に出ると、母親は不意に切り出した。
「うちも生活が厳しくて……。あなたの面倒はみることができないの」
会話の内容はあまり覚えていない。
「とにかくショックだった」
電話のきっかけは、男性が生活保護を申請したことだった。
勤めていた派遣会社を退職した後、なかなか再就職が決まらなかった。
徐々に生活が苦しくなり、手持ちの金も底をついた。
とうとう、東京の都心で一人、ホームレス状態になった。
初めて訪れた都内のある区の福祉事務所。職員は、生活保護を受けるためには「扶養照会」が必要だと説明した。
扶養照会は、生活保護の申請があった場合、申請した人の親族が仕送りや支援ができないか、自治体が調べるものだ。
職員は続けた。
「家族の了承が得られなけれ…
- 【視点】
経験したことがない生活危機に多くの人が直面したコロナ禍のなかでも、生活保護利用者の総数は増えませんでした。社会福祉協議会が窓口となった無利子の「特例貸付」には利用者が殺到し、フードバンクや食料支援の列に並ぶ人の数も右肩上がりだったにもかか
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