電波望遠鏡の効率あげる画期的部品、量子コンピューターに応用も?

水戸部六美
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 国立天文台電波望遠鏡の観測効率を一気にあげうる画期的な部品を開発した。この部品を使うと、次世代計算機「量子コンピューター」のブレークスルーにもつながるかも知れないという。どういうことか。

 電波望遠鏡は、宇宙に存在する目には見えないちりやガスを観測する機器だ。それらが放つ微弱な電波をおわん型のアンテナで集め「受信機」で検出する。最近だとブラックホールの撮影でも話題になった。

 輝く星をみる光学望遠鏡は、画素数がとても多いデジカメのように天体の方向に望遠鏡を向けて露光すれば一気に写真が撮れる。

 一方、電波望遠鏡で画素数にあたるのは、アンテナ一つに対する受信機の数だ。観測効率に直結するため、世界で開発競争が起きている。しかし、一つの望遠鏡に搭載できるのは10個程度、多くても64個と少ない。

 受信機の集積化を阻む課題の一つが「部品の発熱」だ。

 受信機は宇宙からの非常に微弱な電波を検出するため、ノイズが少ない超伝導材料も使われる。超伝導状態を実現するには極低温にする必要があり、受信機は冷凍機に入れられる。

 ところが、受信機を集積化すると、半導体製の増幅器が消費する電力の発熱で冷凍機内が冷えなくなる。現状の冷凍機だと、受信機100個が限界という。

 国立天文台はこの問題を解決する新しい部品を開発し、性能を実証した。

 超伝導材料でできた周波数変換器を二つ組み合わせたもので、入力された信号の周波数はそのままに、パワーだけを4~6倍に増幅できたという。しかも消費電力は従来の1千分の1程度になった。

 開発にあたった小嶋崇文准教授(超伝導エレクトロニクス)は「冷却能力だけでいえば、1千倍の受信機を集積化できることにつながる」と話す。

 この成果は、量子コンピューターの課題解決にもつながる可能性がある。

 量子コンピューターで世界的に最も開発が進むのは「超伝導方式」のマシンだ。心臓部の部品「量子ビット」は超伝導材料でできていて、冷凍機で冷やす必要がある。また量子ビットからの微弱な信号を増幅する半導体増幅器も冷凍機の中に入っている。電波望遠鏡の受信機で使われているものと同じだ。

 現在世界で開発されているマシンの量子ビット数は数十~数百個。実用化には、100万個が必要と言われる。集積させたいが、電波望遠鏡と同じで、冷凍機で冷やせないという問題を抱える。

 国立天文台は、2050年ごろまでに実用化をめざす量子コンピューターの国の大型研究計画にも参加する。

 小嶋さんは「電波天文の技術がほかの産業応用につながるのはうれしいし、共同研究の中で、他分野の方の発想や知識を電波天文の発展にも生かしていきたい」と意気込む。

 成果は米論文誌に掲載(https://doi.org/10.1063/5.0134595別ウインドウで開きます)された。(水戸部六美)

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