使い回しで崩れた「閉域網神話」 NECを揺るがしたサイバー攻撃
NECが構築した電子カルテシステムを使う全国280の大規模病院のうち、半数以上の病院でサーバーやパソコンが病院ごとに同じIDとパスワードを使い回す状態になっていたことがわかった。使い回しが原因で、サイバー攻撃の被害が拡大した病院があったことも明らかになった。
システムを構築したNECの複数の担当者が朝日新聞の取材に応じ、危機感や今後の対策を語った。
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NECで医療ソリューション事業部門のトップを務める浅見英徳氏は言った。「これまでの認識を改め、新しい基準でセキュリティー対策に取り組んでいく」
NECが病院側に提供しているのは、ベッド数300床以上の大規模病院が使う電子カルテシステムだ。そのシステムが昨年10月、サイバー攻撃を受けて患者のデータなどが破壊された。大阪急性期・総合医療センター(大阪市)の件だ。
記者は3月22日、東京都港区のNEC本社で、この件について取材した。「弊社としての考え方をきちんと説明したい」と、センターの被害の復旧に当たったNEC側の担当者2人も同席した。
浅見氏は、NECが取り組んできた医療情報セキュリティー対策の考え方を根本から見直すという方針を説明した。そして、こうも言った。
「外部との結節点がある以上、それは閉域網ではない。そういう認識に立って、これからはやります」
医療業界で支配的だった、いわゆる「閉域網神話」をリセットしたことを認めた発言だ。
この「閉域網」とは一体何なのか。
それは、患者の命と直結する病院の医療機器を守るため、病院内のネットワークと外部と切り離した領域を作り出すことだ。当初はいかなる通信回線ともつながらない、完全に閉じられた状況を想定していた。
ところが近年は、クラウドサービスのような外部ネットワークに接続する医療サービスが増えてきた。スマートフォンやタブレット端末の使用も医療現場で当たり前になりつつあり、病院内のネットワークに様々な外部の通信回線が相乗りし始めた。
その際、病院のネットワークと通信回線の接続点に何らかの認証装置を設け、許可された人しか相互にアクセスできない仕組みを取り入れた。医療業界ではこれも閉域網として受け入れるよう、考え方が変わっていった。
最近では医療機器やサービスを提供する事業者も、認証装置の一つであるVPN(仮想専用線)機器を院内のネットワークに接続し、自社から遠隔操作で保守作業ができる仕組みを整えるようになった。
だが2021年以降、VPN機器を突破したサイバー攻撃が相次ぎ、病院に深刻な被害を与える事件が表面化した。
21年10月31日に発生した町立半田病院(徳島県つるぎ町)の被害は、その一つだ。
原因はVPN機器の欠陥が未修正のまま放置され、不正侵入を見逃したことだった。2カ月近くにわたり病院の機能が実質的に停止したことで、厚生労働省は病院のセキュリティー対策の大幅な見直しを迫られた。
NECの医療ソリューション事業部門でも昨年、サイバーセキュリティー対策の専門部署を立ち上げ、顧客への対策の底上げに動いていた。大阪急性期・総合医療センターがサイバー攻撃を受けたのは、その矢先のことだったという。半田病院の被害からちょうど1年という節目の日だった。
今度は、センターの電子カルテシステムを構築したNECが対応の矢面に立たされることとなった。
センターによれば昨年10月31日午前5時45分、電子カルテが正常に作動しなくなった。いったんは復旧したかに見えたが、約1時間半後、再び動かなくなった。
午前8時40分、現場対応を担うNEC子会社の社員が現場に到着。電子カルテのサーバー画面を開いたところ、ランサムウェア(身代金ウイルス)に感染したことを告げるメッセージが表示されていた。サイバー犯罪集団の犯行声明だった。
どこかに「穴」があったのか。
半田病院の被害を受けてNECは昨年春、電子カルテを使う全国280の病院に対し、自社と関係があるVPN装置などが安全かどうか総点検を実施したという。
浅見氏は「外部と接続せざる…