我々は何かを失いつづけている いがらしみきおさんが見たこの12年

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寄稿・いがらしみきおさん 漫画家

1955年生まれ。仙台市在住。79年デビュー。作品に「ぼのぼの」「かむろば村へ」「I(アイ)」など。

 朝日新聞に寄稿するのは2度目である。1度目は、すでに12年前になる東日本大震災の時だった。私は当時も今も仙台市の住人で、震災では自宅と仕事場が損壊の被害に遭い、妻と2人でひと晩限りの避難体験もした。その時の寄稿は、私の目から見た被災者と日本の状況を描いたものだ。これほどの災害が起きたというのに、被災地の誰もが助け合い、人を信じ、国や神様などを呪ったりはしていなかった。そして、被災地の各地で、水や食べ物やガソリンの前に並ぶ長く静かな行列は、私にはどこか宗教的なもののように感じられ、それを日本人らしいと言ってしまうのは簡単だが、その時の被災地に満ちていた「人を信じる」という空気感は、文化としての宗教しかないように見えた日本の中で、まるで「神様のない宗教」のようだと思った。

 それから12年を経て、今私が感じているのは「我々はなにかを失いつづけているのではないか」という漠然とした不安だ。

 39年前、コンピューターに…

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