「出会える」マッチングアプリ、詐欺被害も 結婚しにくい時代に需要
ネットを使って交際相手を探す「マッチングアプリ」の利用が広がってきた。多数の人とつながることができる利便性が重宝される一方で、詐欺などのトラブルも報告されている。
「大勢に出会える」
都内に住む会社員の男性(30)はコロナ禍でリアルでの出会いに頼れないことから、アプリで交際相手を探してきた。
月に5千円ほどの会費を払うと、何千人もの顔写真が画面上に現れる。居住地や年収などがわかるプロフィルをみて、「いいね」を送り合うと、異性とメッセージのやり取りができるようになる。
男性は100人以上とメッセージを交換し、うち十数人と食事をした。違う業界で働いていたり、異なる趣味を持ったりしている女性にも出会えた。「私のような恋愛経験が少ない人間でも、大勢の女性に出会うことができた」
婚活でアプリを利用している時事ユーチューバーのたかまつななさんは、約300人とメッセージのやり取りをしてきた。
多くの人と知り合えるメリットを評価する一方で、「『いいな』と思った相手と連絡が取れなくなるケースも多い。その度に自己肯定感が削れていく感覚がある」と話す。
アプリ婚、出会いの第1位に
明治安田生命が既婚者1620人を対象に実施した調査では、2022年に結婚した人の出会いのきっかけとして、アプリが第1位(22・6%)になった。職場や学校での出会いを上回り、「アプリ婚」という言葉も生まれている。
マッチングアプリをめぐっては、詐欺の被害も増えている。国民生活センターによると、マッチングアプリや出会い系サイトを利用して金銭をだまし取られたといった相談は、19年度から25件、109件、187件と年々増えている。投資話を持ちかけられ、金をだまし取られるなどしたという。中には数百万円の被害もあったとされる。
今年3月にはアプリで知り合った小学生の女子児童を連れ回したわいせつ略取容疑で、40代の男が警視庁に逮捕される事件も起きた。
業界はAIも使って対策
数十に及ぶアプリがインターネット上で利用できるが、こうしたトラブルを防ぐための取り組みは、各運営会社でまちまちだ。アプリによっては利用規約で既婚者の利用や勧誘活動、営利目的での利用を禁止。違反が発覚すると、アカウントを凍結するといった対処をしている。免許証や源泉徴収票などの提出を求める会社もある。
国内最大手の「ペアーズ」では、顔認証技術を使った本人確認システムを導入。不正利用が発覚したユーザーを排除する目的がある。「タップル」では、過去の不正利用者のメッセージの特性をAIが分析し、利用者を監視するシステムを導入しているという。
ペアーズを運営するエウレカ(東京都港区)の石橋準也最高経営責任者(CEO)は、かつて出会い系サイトが児童買春の温床となっていたことを挙げ、「実名登録を原則とし、結婚につながるサービスとしてクリーンさを押し出している。利用者の安心安全を担保し信頼を得ていくことを重視してきた」と話す。
「自然な出会い」が減った日本社会に
中央大学の山田昌弘教授(家族社会学)はマッチングアプリの隆盛の背景に、結婚をめぐる日本社会の変化があるとみる。
見合いが多かった戦前から一転、戦後の日本社会では、学校や職場などで身近な人と交際するケースが増えた。戦後、多くの学校が共学化し、企業も一般職として未婚女性を多数採用。社員旅行なども多かったからだ。
しかし1990年代以降は、正社員の長時間労働と非正規雇用の拡大で、異性と関係を深める時間が減り、収入が不安定な男性が増えた。自然な出会いが減り、積極的に出会いを求めないと結婚しにくい時代になったことから、アプリの需要が高まったと考えられるという。
山田さんはもはや「結婚しなければいけない時代ではない」として、「アプリはリスクやコストパフォーマンスを考えつつ、自分のペースで婚活するための道具にはなる」と話す。(田中紳顕、伊藤和行)
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