豊かな森を守るため 小畑明日香さん(32)
鳥取県南東部の智頭町の山あいにたたずむ国登録有形文化財の旧山形小学校。築80年の木造校舎の階段をきしませながら2階へ上がると、木製品を作る「ASNARO」の工房がある。
部屋の中にはレーザー加工機で文字やイラストを繊細に彫り込んだり、愛らしい形に仕上げたりした雑貨が並ぶ。素材は特産の智頭杉など国産材。木の優しい香りにほっとさせられる。
「木は肌触りがよく、香りも癒やされる。加工次第でかっこよくもかわいくもなり、表現方法は無限」
大阪府池田市出身。テキスタイルデザインを手がけていた母親の影響もあり、小学生のころから手作業が好きで、ミシンを使った手芸に夢中になった。
地元の高校卒業後、鳥取大学農学部へ進学。輸入木材の影響で国内の森林環境が危機にあることを知り、ボランティアサークルを設立した。県内の山林で、竹林の整備や間伐などの活動を続ける中、「国産木材をもっと付加価値のあるものにしたい」との思いを募らせ、起業を決意した。
大学を一時休学し、特産物を生かした商品開発で成果をあげていた山口県・周防大島のジャム専門店で働き、経験を積んだ。島には移住者も多く、「シンガー兼漁師」や「詩人兼観光ガイド」などさまざまな生き方をする人たちがいた。起業には不安もあったが、いきいきと暮らす住民たちの姿に勇気づけられ、「人生は割と何とかなるんだなって頭が柔らかくなった」。
大学卒業後、岡山県西粟倉村の木材関連会社に勤務し、レーザー加工機の技術を学んだ。さらに鳥取市内の遺跡発掘現場のアルバイトで出土遺物を図面データ化する仕事に関わり、レーザー加工機に必要なソフトの使い方も学んだ。
端材を使う木製品では扱う材木の数量が少なく、市場から仕入れにくいのが課題だったが、大学時代から縁のあった智頭町の製材会社が協力。2016年にASNAROの前身を創業した。「未熟な若者を見守り、必要なときに手を差し伸べてくれた大人たちのおかげで、今があります」
生み出される製品は透かし模様のヘアゴムやイヤリング、アクセサリー用のフレーム、木製の感謝状など多彩だ。何膳もつながった割り箸など遊び心のあるものもあり、「アイデアを思いついたり、発見したりするとニヤニヤしてしまう」と笑う。コストを抑える技術も蓄積し、ノベルティーグッズを求める企業などの相談も増えてきた。
「国産材を選ぶことで林業が盛り上がり、海外の違法伐採を止めることにもつながる。木材の産地にも関心を持ってもらえたら」
「智頭を木工で有名なまちに」「木材が手に入る道の駅があれば」……。豊かな森を守るためのアイデアの芽が次々と育っている。(大久保直樹)
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〈おばた・あすか〉 1991年、大阪府池田市生まれ。地元の高校卒業、鳥取大学農学部などを経て2016年、鳥取県岩美町で「あすなろ手芸店」創業。17年に「鳥取県ビジネスプランコンテスト」の「とっとり起業女子大賞」受賞。同年、鳥取県智頭町の旧山形小に移転し、21年に社名を「ASNARO」に変更した。
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