命かけた言葉、受け取った責任果たすため 人として思い巡らせること

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 優れた報道で国際理解に貢献したジャーナリストに贈られるボーン・上田記念国際記者賞の2022年度の受賞者に朝日新聞イスタンブール支局長の高野裕介記者が選ばれました。様々な現場でどのような思いを抱きながら取材をしてきたのかを振り返ります。

   ◇

 今回の受賞が発表される直前まで、私は大地震が襲ったトルコの被災地にいました。目の前には遺体が並び、頭部のない小さな女の子もいました。涙を流しながらがれきの撤去を見守り、家族の生存を信じて待つ人たちの姿を見て、私自身、現地で何の役にも立てていないと無力感を覚えることもありました。

 それでも、唯一できる「書くこと」を通して、日本の読者の方々に届けるために心を砕いていかなければいけないと強く感じています。

泣き続ける母にできることは

 今回評価をいただいたウクライナでの報道のなかで、「息子はどこに ロシア軍に連れ去られた人々」という連載を書きました。ロシアが侵攻したウクライナのある村から消えた、一人の青年の姿を追うものです。

 「工場からいなくなり、帰ってこない人がいる」。取材の発端は、市民が監禁されていた鋳物工場で聞いたそんな話でした。人づてに情報をたどる中で関係者から得たのは、監禁された人たちに関する資料。それをもとに、いなくなった人を探そうというのが取材の出発点でした。

 訪れたのは、首都キーウ郊外の小さな村。この連載に登場するタティアナさん(49)とその息子トーリャさん(24)が暮らす家でした。経緯を2~3時間ほど聞かせてもらいましたが、タティアナさんはずっと泣いていました。

 私はその土地に住んでいるわけではありません。帰る場所もあります。危機が迫れば、その場所を離れることもできます。そんな私が「あなたの気持ち、わかりますよ」とは軽々しくは言えません。

 ですが、自分の子どもがある日突然いなくなって、消息がわからないことの残酷さや疲弊していく気持ちというのは、子どもを持つ親の一人として痛いほど伝わってきました。

 家族が亡くなることも当然つらいことです。一方、これまで紛争地などで市民に話を聞くなかで、最愛の人が生きているのか、死んでいるのか何年もわからないという状態を目にしてきました。家族はずっと苦しまなくてはならないのです。

 「息子のこと、何か知ってい…

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