コチコチコチ……
どこか懐かしい、秒針が進む音が鳴り続ける。正時になると、にぎやかだ。
カーンカーン
チーンチーン
ボーンボーン
東京・吉祥寺にある弁当・総菜の製造販売店「二丁目SOZAI」。
「時計屋ですか? ってよく聞かれるよ。違うって言うと驚かれるよ」。店主の熊田伸哉さん(76)は苦笑する。
調理室も含め、手狭な店内の壁一面を飾るのは、約40個の掛け時計。どれも年代物の振り子時計だ。
店内の壁が古い掛け時計で覆われた理由は、店主の趣味だけではない事情がありました。明治維新から高度成長期まで、日本の生活史に欠かせない存在だった振り子時計の一群を見ることできます。
大正時代のものから、戦後の高度成長期に普及した生活必需品まで様々。「祝」と書かれ、職場の仲間から贈られたらしきものもある。
熊田さんがこの店を開いたのは、1985年ごろ。
当時、通りの商店街は吉祥寺の発展に伴い、様変わりしつつあった。熊田さんの父は米屋を営み、ほかに精肉店や八百屋、豆腐屋などが並んだ風景は、飲食店やオフィスビルが目立つようになっていた。勤め人が増えたことで、弁当へのニーズが高まっていた。
開店から10年ほど経ったころ、繁盛した店も壁の汚れが目立つようになった。熊田さんは改装を考えたが多額の費用がかかるとわかり、発想を切り替えた。
「店に置いてほしい」そのわけは…
「時計をいっぱい掛けてしま…