第8回清野とおるさんが描いた名物ママと酔客 笑い合っても独りだった最期

有料記事

森下香枝
[PR]

 漫画「東京都北区赤羽」は、大衆酒場やスナックなど昭和の風情が漂う「せんべろ」(千円前後で立ち飲みができる)の街・北区の魅力を描いた大ヒットシリーズだ。作者の漫画家・清野とおるさん(43)は2019年にタレントの壇蜜さんと結婚したが、今も単身、北区に暮らしている。同区は人口約35万人のうち65歳以上が約8万5千人と高齢化率は24%を超える。単身世帯も多い。

 清野さんには忘れられない場所がある。漫画家としてブレークする前の2013年ごろ、北区の弁当屋でアルバイトしながら、通いつめた東十条駅前にあった場末のスナック「キャンドル」だ。清野さんはノンフィクション漫画「さよならキャンドル」で、一風変わったママの店に集い、カラオケで酔って暴れる住民たちの悲喜劇を描いた。

 キャンドルがあった場所を訪れると、マンションになっていた。漫画に写真付きで登場したママはどこへいったのか。清野さんは「キャンドルでは死が隣り合わせに感じられる瞬間があった」と振り返る。

 漫画の連載第一部が終了し、昨年11月末にトークショーが新宿区内で開かれた。清野さんと漫画に登場するキャンドルの常連客・サトミさん、赤澤潤さん、講談社の担当編集者、笠井俊(とし)純(すみ)さんが出演し、思い出を語りあった。

 「若気の至りだったのか、蛾(が)がヒラヒラとあかりに吸い寄せられるようにキャンドルに通っていた。なぜなのか、いまだにわからないが、楽しかったですね。あの時代は」と清野さんは振り返った。

 ママは、嫌いな客にはキャットフードをまぜたお通しを出し、注文を受けてからコンビニにビールを買いに行くときもあった。無銭飲食しても懲りずに押しかけてくる常連客との丁々発止のやりとりは、携帯電話などで撮影されており、会場では映像、写真なども披露された。清野さんら常連客は年齢もバラバラで、互いの素性も知らずともキャンドルを媒介したサークル仲間のようだった。

 そんなママとの別れが突然、訪れた。

漫画家・清野とおるさんが場末のスナックで出会った、名物ママと愛すべき常連客。「トラウマ級の記憶」だそうです。

あなたは誰だったの?

 10年前のお正月、警察から…

この記事は有料記事です。残り853文字有料会員になると続きをお読みいただけます。
今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません