広々とした山地に放牧する牛、飼料に地域の農作物の規格外品を使う豚など、店で扱う肉の生産者には、それぞれのポリシーがある。たとえば硬い肉のかむほど感じるうまみは、よく歩いて草を食べて育つからで、牛の存在が山の荒廃を防いでいるとしたら……。銘柄の知名度や、A5の格付けといった市場の物差しだけで価値ははかれない。「いい肉とは何か」。肉を食べることが地球環境の問題と重ねて語られるいま、農と食と人をつなぐ仕事だという意識は強くなった。
楠本公平さん(30)は、焼き肉店「南山」(京都市左京区)の3代目だ。国産牛の赤身肉を核に、食の安全・安心を掲げて経営をしてきた母から引き継ぎ、社長に就いたのは2020年4月。コロナ禍が始まった頃だった。
店の一時休業を決めたが、「食の流れを止めるわけにはいかない」。取引先は、肉に限らず野菜や米の農家も小規模。店のために育ててくれているものは多い。交流のある飲食店や製造業者も、何をすればよいか困っていた。
店の地下フロアで始めたのが…