引退寸前からの大躍進 37歳は日本タイトルマッチにたどり着いた
昨年は引退寸前まで追い込まれていたプロボクサーが、大舞台に立つことになった。熊谷コサカジム(埼玉)の加藤寿だ。37歳で初の日本タイトルマッチに挑む。
20歳でデビューした加藤は、自身を「運のないボクサー」だと思ってきた。
戦績12勝(8KO)10敗2分け。長い間、日本ランキングに入れそうで入れない選手だった。
ランク入りしている選手、いわゆる「ランカー」に勝てば自分がランカーになれる。加藤は27歳で初めてランカーに挑んで以降、接戦はありながらも、その壁を越えられなかった。
国内では、ランキング外の選手が37歳になると強制的に引退になる。
その「定年」が半年後に迫っていた昨年1月3日、試合への最終調整中に左アキレス腱(けん)を断裂した。試合予定日だった11日は、手術台の上にいた。
心は折れかけた。だが、まだ戦う姿を見たいという周囲の声に励まされた。「できるかどうかは分からない。でも、やるだけやろう」
この決心を境に、ボクシング人生が激変した。
運命の誕生日を翌日に控えた昨年6月29日。東京・後楽園ホールのリングに上がった。負ければ引退が決まる崖っぷちで、今まで勝てなかったランカーを2回TKOで破る。これで日本スーパーウエルター級(約69・8キロ以下)6位に入り、現役続行が決まった。
さらに11月の試合でも、8回TKO勝ち。同時期に、自分よりランク上位の選手が敗れたり、体重超過を犯したりして、ランキングは2位まで上がった。
あわや引退からの急浮上。37歳のボクサーは「一生分の運を使い果たしてしまっているようです」と笑った。
今年1月11日、日本ボクシングコミッションからジムに電話がかかってきた。日本タイトルマッチへの出場可否を問うものだった。出たいと即答した。1年前に手術を受けたのと同じ日に届いた吉報だった。
試合は4月1日、エディオンアリーナ大阪(大阪市)で開かれる。正規の日本王者がけがをしたために設けられた「暫定王座決定戦」だが、勝てば正規王者と同じように認定され、ベルトを巻くことが出来る。
相手は、日本1位の中島玲(24)=大阪・石田ジム。13歳差の対決だ。加藤は言う。「ずっとここを目指してきて、こうして重圧や恐怖心を味わえるのも幸せなこと。今の自分にできる精いっぱいの戦いをします」(伊藤雅哉)
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