英国版「生きる」 カズオ・イシグロが黒澤の名作をリメイクした理由
編集委員・石飛徳樹
黒澤明監督の映画「生きる」が英国に舞台を移し、「生きる LIVING」となってよみがえった。脚色したのはカズオ・イシグロさん。この作品で今年の米アカデミー賞脚色賞にもノミネートされた。日本出身のノーベル賞作家はなぜ、そしてどのように70年前の名作をリメイクしたのか。
「生きる」は志村喬主演で1952年に公開された。生真面目だが事なかれ主義の役人が末期がんに侵されていることを知り、自らの人生を省みて、残り少ない時間を大切にしようとする。黒澤監督と橋本忍、小国英雄によるオリジナルストーリーだ。
54年長崎生まれのイシグロさんは5歳の時に英国に渡った。「生きる」を初めて見たのは11歳の頃だったという。「当時の英国では日本映画に触れる機会がほとんどありませんでした。見ることの出来る数少ない監督が黒澤と小津安二郎でした。2人の映画は私に大きなインパクトを残しました。『生きる』は大人になるにつれ、どんどん重要な作品になっていきました」
「生きる」はイシグロさんにとって大好きな作品。それでも、「もしこの映画が……」と想像をめぐらせてきたことがあるといいます。これが、リメイクのきっかけとなりました。
志村喬に代わり、生真面目で…