なぜ、薬を無料提供するのか エーザイの「定款」が支えるSDGs

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編集委員・木村裕明
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アナザーノート 編集委員・木村裕明

 熱帯・亜熱帯途上国を中心に蔓延(まんえん)し、「顧みられない熱帯病(NTDs)」と呼ばれる伝染病がある。20の疾患の総称で、世界で17億人が感染のリスクにさらされている。

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 貧しい患者が多く、提供しても売れる見込みがないために薬が普及しにくく、予防や治療が難しいという課題を抱える。国連はSDGs(持続可能な開発目標)の17のゴールの3番「すべての人に健康と福祉を」の中で、2030年までにNTDsを根絶する目標を掲げる。

 アルツハイマー病の新しい治療薬「レカネマブ」が米国で迅速承認され、一躍注目を集めた製薬大手のエーザイが、NTDsのひとつ、リンパ系フィラリア症(LF)の治療薬「ジエチルカルバマジン錠(DEC(デック)錠)」を無償で提供していることはあまり知られていない。しかも、10年も前からだ。

 すでに29カ国に20億錠以上を供給し、世界中でLFを制圧するまで無償での提供を続けると、世界保健機関(WHO)に約束している。日本企業で唯一の取り組みだ。

 LFは病原体の寄生虫ミクロフィラリアが蚊を媒介して人のリンパ系に寄生し、リンパ液の流れが悪くなって、足が象のように腫れ上がったりする感染症だ。古くからある病気で、日本でも1970年代まで流行した。平安時代の記録も残っており、西郷隆盛が苦しんだことでも知られる。

 がんと認知症の治療薬を主力とするエーザイはなぜ、どれだけつくって売っても1円の稼ぎにもならない感染症の治療薬を提供し続けるのか。

 無償提供は1988年から経…

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