「子育て罰」の国の少子化対策 家族観の呪縛、解き放つことが第一歩
論壇時評 東京大学大学院教授・林香里さん
「子育て罰」。社会福祉学者桜井啓太がchild penaltyの訳語として使い始めた言葉だ。桜井は教育学者末冨芳(かおり)との共著〈1〉において、子育てをすると親子とも制裁を受けるかのような苦しさを味わうが、それが日本において顕著であると警鐘を鳴らす。若い世代は「子育て罰」を鋭く察知して、子どもをもつことを躊躇(ちゅうちょ)するのだ。
実際、国立社会保障・人口問題研究所の2021年の調査(〈2〉)によると、妻の年齢が35歳未満の場合、理想の数の子どもを持たない理由として、子育てや教育にお金がかかりすぎるからと答えた人が77・8%もいた。子を持つと、まるで罰金でも取られるかのように、支出が増えるイメージがあるのだ。
いま、日本の大学生で何らかの奨学金を受けている人は5割にのぼり、そのうち9割が公的奨学金である日本学生支援機構の奨学金を受けている(〈3〉)。弁護士の岩重佳治によると(〈4〉)、この機構の貸与奨学金は取り立ても返還の猶予・免除の条件も厳しいという。さらに保証人制度は、親に対して、子の学費が用意できないなら保証人となって責任をとれと言わんばかりの「家族主義」が前提だ。岩重は、日本の高等教育への公的支出は経済規模のわりに低水準であることに触れ、学費と奨学金制度の改革は「これからの世代のために、私たちが責任を持って実現しなければなりません」と訴える。
日本の少子化の原因として、未婚率の増加も問題視されている。社会学者の山田昌弘は、親と同居して経済的に不自由していない若者が、結婚を先送りして年齢を重ね、結果的に出生率を下げていると指摘する(〈5〉)。
毎月、雑誌やネットに掲載される注目の論考を紹介する「論壇時評」。林香里さんの最後の執筆となる今回のテーマは「子ども」です。後半では、伝統的な男女の役割規範が日本の少子化の背景にあると指摘する、米国の研究者の著書に注目。日本政府が進める少子化対策に欠けている視点とは。
これについて、米国の社会学…
- 【視点】
子育て罰、新書にしたのは「なくすため」です。明治には「子ども天国」とお雇い外国人に賞賛された子どもを愛しむ日本人、令和日本では絶滅危惧種になってしまったのでしょうか? 私自身は『子育て罰』を執筆するプロセスで、児童学者である本田和子(