「虐待」の甲斐犬、新たな家族のもとで おびえと震えは今も

御船紗子
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 多数の甲斐犬やシバイヌを劣悪な環境で飼っていたとして、東京都八王子市の元ブリーダーの男(46)が動物愛護法違反(虐待など)容疑で警視庁に逮捕された。「飼育場」に残された100匹近くの犬は今、新たな家族のもとで暮らしている。

 「この子たちが来て日々の暮らしが楽しくなった」。山梨県北杜市の自営業三橋大地さん(28)は、甲斐犬2匹を引き取った。自宅の一角にケージを組み立て、近くに住む交際相手の女性と分担して世話をする。

 三橋さんは昨年、自然豊かな環境を求めて千葉から移住した。引っ越す際、山梨固有の種である甲斐犬の存在を知り、いつか飼いたいと思っていた。ネットで調べるうちにたどり着いたのが、動物保護団体「ワン・モア・フィールド」(OMF、横浜市)のブログだった。

「幸せそうな子がいない」

 そこに掲載されていたのは、多頭飼いの結果、劣悪な環境に置かれた甲斐犬たち。1月に警視庁が家宅捜索した八王子市の飼育場に残された94匹の引き取り手を募集する内容だった。

 三橋さんが2月にその飼育場を訪ねると、ケージに押し込められた犬が人間におびえるようにほえ続けていた。「幸せそうな子がいない」。それが第一印象だった。

 5歳のオスに目がとまった。脚部が床ずれしていて、顔の一部の毛がない。自分のほかにもらい手が現れるか心配になった。「この子はいい子。飼いやすいですよ」。その後逮捕されることになる男が言った。男自身もブリーダーをすでに廃業し、引き取り手を探していたとみられる。

 足にすり寄ってきた犬もいた。2歳のメスで、かわいらしい顔だち。悩んだ末に2匹とも引き取り、オスはテン、メスはアミと名づけた。

いつか思いっきり自然の中を

 2匹と暮らして1カ月余り。片方をなでていると、もう片方も「構って」と言わんばかりに顔を突きだしてくる。ただ、まだ人間におびえることがあり、散歩で近所の人と会うと、2匹とも隠れようとしてリードを引っ張り、震える。

 「この子らが幸せと思えるよう、どうしたら過ごしやすいか考えている。自分も成長させてもらっています」と三橋さん。時間をかけて人への恐怖心が解けたら、思いっきり自然の中を駆け回らせたい、と思っている。御船紗子

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