「がん検診は必要ない」の誤解 定期受診は代わりにならない

酒井健司
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 「第4期がん対策推進基本計画」が閣議決定されたというニュースがありました。相談支援や緩和ケアの早期導入などと同時に、がん検診の受診率の目標を第3期の50%から60%に引き上げるそうです。国際比較では、日本のがん検診の受診率は低いほうで改善の余地はまだまだあります。

 たまに、病院に定期的に通院し検査も受けているので、がん検診は不要だと誤解している患者さんがいらっしゃいます。「毎月通院しているのに、がんが進行して症状が出るまで見落とされた」という訴えも聞きます。ですが、定期受診はがん検診の代わりにはなりません。私は、患者さんががん検診を受けているか確認するようにしています。

 定期受診とがん検診は目的が違います。定期的に通院している患者さんの多くは、高血圧糖尿病などの慢性疾患です。その病気が悪化していないか、治療は適切かを判断するための検査は行いますが、がんを早期発見できるとは限りません。一方で、がん検診は無症状の人のがんを早期発見し、がんの進行や死亡を予防することが目的で、大腸がんなら便潜血検査、乳がんならマンモグラフィーといった検査を行います。定期受診では普通、こうした検査はしません。がんの治療後の定期受診でも同様です。肺がんの手術後の患者さんは再発がないか、胸部CTなどの精密な検査を受けることになるでしょう。ですが、初期の胃がんや大腸がんは胸部CTではわかりません。

 せっかく通院しているのでついでに全身を調べてほしいというご希望もありますが、症状もないのに全身の検査を行うのは保険診療外になりますし、過剰な検査が害を及ぼすこともあります。原則として、定期受診をしていても、別途、推奨されているがん検診を受けてください。日本では、肺がん検診、胃がん検診、大腸がん検診、子宮頸がん検診、乳がん検診の5つです。たいていの自治体で補助が出ており高額な自己負担なく受けられます。

 ただし、たとえば心肥大を有無を評価するために胸部X線検査を受けた高血圧の患者さんが、さらに肺がん検診で同じ検査を受けるのは無駄です。定期的に通院している患者さんは、どのような検診を受けるべきなのか、主治医に相談するのがよいと思います。

 また、がん検診は症状のない方が対象です。気になる症状があれば医師に相談してください。たとえば「乳房にしこりがあって気になるけど、半年後に乳がん検診なのでそのときに診てもらおう」などと検査が遅れると、その間にがんが進行するかもしれません。定期受診とがん検診は別のものであり、定期受診だけでは十分ではありません。がん検診も受けることが重要です。(酒井健司)

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酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。