産官学連携、アスパラ自動収穫機開発 スマート農業進める伊那市など

安田琢典
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 先端のロボット技術やセンサー技術を駆使する「スマート農業」の普及に取り組む長野県伊那市が、産官学連携でアスパラガスの自動収穫機を開発した。アスパラの栽培は、収穫作業が繁雑で機械化が遅れている分野。自動収穫機の運用に適したビニールハウスとセットで3年以内の商品化をめざし、農家の負担軽減につなげる。

 同市の伊那技術形成センターで3月に開かれた報告会には、自動収穫機の開発に向けて同市と「露地野菜コンソーシアム」と名付けた連携組織をつくる南信工科短期大学校やJA上伊那、市内外の企業などから約30人が参加。自動収穫機のシステム構築を担った同大学校の松原洋一教授らの説明に耳を傾けた。

 アスパラは通常、ビニールハウスで栽培される。そこでハウス内に敷いたレールの上を走行するアームとコンテナを備えた自動収穫機を開発した。搭載された3次元カメラとパソコンがアスパラを認識すると、アームの先に取り付けられたハンド部分を伸ばしてアスパラをつかみ、カッターで刈り取ってコンテナに運び入れる仕組みだ。

 本体の重さは約24キロで、1人で持ち運びが可能。大型のバッテリーを使えば、最長で8時間連続して稼働するという。また、収穫本数の情報が別の場所にあるパソコンに送信されるため、農家の負担は大幅に軽減される。

 開発開始から5回にわたって試作を重ね、刈り取りに成功した本数の割合を示す収穫率は70%ほどに達した。ただ、直径1センチ未満のアスパラや、近くに雑草が生えているアスパラは刈り取り漏れが起きるため、4月からはJA上伊那の子会社にあたるJA菜園の農地でさらに試験運転を重ね、収穫率を上げられるようシステムを調整する。

 市農政課によると、農家の後継者不足が目立ちはじめた2016年度から市はスマート農業の導入を本格化。自動収穫機の開発は20年度に始まった。

 同市と駒ケ根市、上伊那郡6町村を管轄するJA上伊那によると、伊那市は全国の市町村でアスパラの出荷額が14番目に高い。ただ、JA上伊那の管内でピーク時の2000年代前半に約5億5千万円ほどあった出荷額は、22年度に約3億8千万円にまで落ち込んだ。

 一因とみられる後継者不足の解消に向け、農家の所得を増やしたいJAは、農産物の中でも単価が高いアスパラ出荷額を28年度に10億円まで伸ばすことを目標に掲げている。そのためには後継者育成の取り組みに加え、栽培の効率化につながる作業の機械化や自動化が欠かせない。

 JA菜園の社長も務めるJA上伊那の白鳥健一常務理事は「自動収穫はもちろん、出荷の際に手間がかかるアスパラを束ねる作業も機械化されれば」と話す。白鳥孝市長も「スマート農業の分野でトップランナーになろうとしてきた。省力化がさらに進む新たな取り組みに期待している」と喜んだ。(安田琢典)

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