【そもそも解説】古い郵便貯金、なぜ消えちゃうの?
郵便局に預けた貯金がある日を境に消滅する制度により、大切な資産を失う人が増えている。「貯金が消える」って、いったいどういうこと? 仕組みや理由を解説します。
Q 放っておくと消える貯金がある?
A 2007年10月1日より前に預けた定額郵便貯金(満期10年)は、満期から20年2カ月後までに払い戻しの請求などがないと、権利が消滅する制度がある。つまり、最初に預けてから約30年後、貯金した人の権利が消滅し、大切な資産を失うことになる。21年度の消滅額は457億円で、過去最高だった。消えた貯金は経費などを除く大部分が国のものになる。
Q 普通の銀行の預金は大丈夫?
A 民間の銀行では、お金の出入りが10年以上ない口座を「休眠預金」にして使えなくすることはあるが、預金した人が請求すれば払い戻しに応じてもらえる。預金が消えることは一般の民間金融機関ではない。
Q なぜ郵便貯金だけ違うの?
A 権利消滅を定めた旧郵便貯金法が、民営化前の定額貯金には適用されるからだ。ほかに「定期郵便貯金」と「積立郵便貯金」も権利消滅の対象になる。一方、民営化前の通常郵便貯金はゆうちょ銀行に引き継がれていて、権利は消えない。民営化後にゆうちょ銀行へ預けた貯金も消えることはないんだ。
Q どんな人が貯金を失っているの?
A 貯金した人が亡くなり、貯金の存在に誰も気づかないというケースも多そうだ。でも、実際に貯金を失った人からは「貯金が消える法律があるとは知らなかった」と訴える声が出ている。
Q 法律の周知はきちんとされている?
A 民営化前の古い貯金を管理する独立行政法人「郵政管理・支援機構」が、権利消滅の2カ月前に催告書を発送している。でも、30年もたてば引っ越していることも多く、8割は届いていないんだ。広告やチラシで法律を広めているけど、実際に多くの人は知らないとみられる。
30年前は、貯金をするときに消滅制度について説明もしていなかった恐れがある。郵便貯金証書にも、消滅制度について何も書かれていない例があるんだ。
Q いちど消滅した貯金は取り戻せないのかな?
A 今はかなり難しい。「真にやむを得ない場合」は権利の復活を認め、郵政管理・支援機構が貯金を戻すことがある。認知症患者の家族から抗議を受けて、11年に始めたことだ。でも、今は天災や長期入院といった限定的な理由に限られている。
Q 「法律を知らなかった」という理由では認められない?
A 今は復活の理由としては認めていないようだ。でも、法律の周知が不十分で、制度自体に納得がいかないという苦情も多い。専門家からは、貯金の復活をもっと幅広く認めるべきだ、という指摘も出ている。(藤田知也)
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