コミュ力高い女子王者 斎藤佑樹さん「男女でヒント共有しては?」

斎藤佑樹
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斎藤佑樹「未来へのメッセージ」 神奈川・横浜隼人へ

 校舎脇の階段を下りると、隣り合う二つのグラウンドから横浜隼人の野球部員の声が聞こえてきました。

 奥に見える球場では、男子の部員が汗を流していました。部員100人を超える神奈川県の強豪の一つで、夏1回の甲子園出場経験があります。

 僕の目的地は、その手前にある長方形のグラウンドの一角。昨夏の第26回全国高校女子硬式選手権大会で初優勝した女子部の「ホームグラウンド」です。

 およそ8カ月前、甲子園球場であった決勝では、開志学園(新潟)を相手に延長十回(十回からタイブレーク)、4―3で競り勝ちました。その粘り強い戦いぶりとともに、チームの明るさも強く印象に残っていました。

夏の甲子園の優勝投手で元プロ野球選手の斎藤佑樹さん(34)が、高校野球情報サイト「バーチャル高校野球」のフィールドディレクターとして取材活動をしています。野球界やスポーツ界の未来を考えます。

 今春の第24回全国選抜大会でも4強に入りました。女子高校野球界屈指の強豪の普段の取り組みを見てみたいと思ったのです。

 女子のグラウンドは他部との共用で、硬球での打撃練習の機会は限られます。その分、守備の基礎練習を繰り返すそうです。特別な練習メニューではありません。

 驚かされたのは、練習中の会話の多さです。コーチから体の使い方の指導を受けると、自然とグループができ、話し合いながら試行錯誤しています。どこか、楽しそうです。

 指導者の指示に対しても返事だけで終わらず、疑問点を聞き返したり、確認したりしていました。

 僕に対しても同じです。これまでの取材と比べても言葉のキャッチボールが長く続くように感じました。

 昨夏の甲子園の決勝を思い出しました。ベンチからの元気な声が途切れず、ひとつひとつのプレーで言葉をかけ合い、ときには喜びを分かち合う。そんなコミュニケーションの素地は普段の練習にあったのだと分かりました。

 意外だったこともあります。男子と切磋琢磨(せっさたくま)しているのではないかと、有馬雅妃(みやび)主将(3年)に普段の交流について尋ねると、「あんまりないんです」という答えが返ってきました。

 トレーニング方法を教えてもらったことなどは何度かあるそうですが、日常的な交流は盛んではないようです。

 これはちょっともったいないな、と思いました。僕はゴルフが好きです。ただ、プレーで参考にするのは男子のプロではなく、女子のプロです。僕のドライバーの飛距離が男子のプロより、女子のプロに近いからです。身近に感じられるレベルをお手本にした方が、より上達につながると考えるからです。

 横浜隼人の女子部にとって、激戦区の神奈川から甲子園をめざす男子部は身近な刺激になるはずです。野球談議をするだけでも、上達のヒントを得られると思います。

 逆に男子の部員も、女子の部員から学ぶことはあるはずです。たとえば、女子の明るい雰囲気作りや密度の高いコミュニケーションの手法も、その一つでしょう。

 田村知佳監督(43)は、国学院久我山(東京)の野球部で男子に交ざって白球を追いました。その経験を踏まえて、言います。

 「『女子野球』というカテゴリーができて本当にうれしい。でも、それがもっと当たり前になってほしい」

 全国高校女子硬式選手権の決勝が2年連続で甲子園で開催されました。今春の第95回記念選抜大会では女子部員が試合前のノッカーを務めることが認められ、実現しました。これまで男子との間にあった「壁」は少しずつ低くなってきているように思います。

 有馬主将に野球の魅力について改めて尋ねると、「いいプレーをした時に、みんなで喜べる。チームプレーが野球をしていて、いいなと思うところです」と返ってきました。

 これは、女子も男子も一緒です。お互いに上達のヒントを共有し、それぞれの長所を見習う姿勢を持てれば、さらにいい野球界になっていくのでは――。元気な声が響くグラウンドで、そんなことを思い描いていました。(斎藤佑樹)

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    中川文如
    (朝日新聞スポーツ部次長)
    2023年4月25日7時41分 投稿
    【視点】

    斎藤佑樹さんが「記者」になって高校野球の現場を巡るシリーズ。今回は昨夏に女子日本一となった横浜隼人を訪ねました。 「これまでの取材と比べても言葉のキャッチボールが長く続くように感じました」と斎藤さん。うーん、取材の醍醐味を満喫していら

    …続きを読む
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    稲崎航一
    (朝日新聞大阪スポーツ部長)
    2023年4月25日15時48分 投稿
    【視点】

    花巻東(岩手)や佐久長聖(長野)など、強豪校に続々と女子野球部が創設されています。 今春の選抜大会で4強入りした広陵(広島)では、男子の中井哲之監督が女子の総監督も務め、指導も手がけているそうです。 野球が好きで楽しさ、明るさを前面に押

    …続きを読む