第1回「お店番って?」大手書店から転身 まちの本屋で、一冊を手渡す喜び
伊藤良渓
日が照る間にまちを歩くのは、久しぶりだった。
2020年の夏。東京都内の大手書店に勤める鈴木雅代さんは、横浜・妙蓮寺の商店街にいた。
仕事は忙しかった。このまちにそれまで7年ほど住んでいたが、「寝るために帰る場所」。どんな店があるのか、どんな人が住んでいるのか、知らなかった。コロナ禍で店舗の業務が減ったことを機に、散歩してみることにした。
商店街で見つけたのは、妙蓮寺駅から歩いて2分ほどの「石堂書店」と、向かい合う分店の「本屋・生活綴方(つづりかた)」。自分の住むまちに書店があることに、初めて気づいた。
石堂書店は、この地で70年以上続くオールジャンルの新刊書店。生活綴方の本棚には詩集や歌集、写真集や韓国文学などが並び、鈴木さんが勤める書店とは違う特色を持っていた。
生活綴方を訪れ、レジに座る男性に聞いた。「ここのお店、1人でやられているんですか」。男性は「いやいや、僕はただのお店番」と笑った。「え、お店番って何ですか?」
「本屋を引き継いでほしい」
この書店が好きな人が集まっ…
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