歴史小説家が読み解く「蔦重」、出版界が偏愛する25年大河の主役
2025年のNHK大河ドラマは「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~」と発表された。喜多川歌麿や東洲斎写楽の浮世絵を出版したことで知られる蔦屋重三郎(1750~97)が主人公だ。長編小説「蔦屋」の著書がある歴史小説家の谷津矢車さんに、編集者・蔦重の魅力を寄稿してもらった。
「2025年大河ドラマの主人公は蔦屋重三郎」。大河ドラマウォッチャーの皆様はさぞ意外の念を覚えたことだろう。SNSでも「蔦屋って誰?」「何をした人?」「戦のない時代の人だ」などなど、困惑の声が多数上がっているようである。
と、世間ではマイナー扱いされている蔦屋重三郎が、創作物の世界ではかなりの人気を誇っていることをご存知(ぞんじ)だろうか。
ここ10年の小説に話を絞っても、蔦重が主人公ないし狂言回しを務める作品はかなりある。管見によれば、鈴木英治「蔦屋重三郎事件帖(ちょう)」シリーズ(ハルキ文庫)、矢野隆「とんちき 耕書堂青春譜」(新潮社)、吉森大祐「うかれ十郎兵衛」(講談社)、評伝小説の増田晶文「稀代(きたい)の本屋 蔦屋重三郎」(草思社文庫)、タイムトラベル歴史物にビジネス書要素をまぶした車浮代「蔦重の教え」(双葉文庫)といった作品が刊行されている。また、視野を広げて漫画作品に目を向ければ、芽玖(めぐ)いろは「いろはむらさき」(KADOKAWA)、道雪葵「女子漫画編集者と蔦屋さん」(一迅社)、桐丸(きりまる)ゆい「江戸の蔦屋さん」(芳文社)などがある。
やつ・やぐるま 1986年、東京都生まれ。著書に「おもちゃ絵芳藤」「ええじゃないか」「宗歩の角行」など。本紙読書面「文庫この新刊!」を担当。
ここでご紹介したのはあくまで氷山の一角で、いわゆる「写楽もの」(絵師の東洲斎写楽は晩年期の蔦重が売り出しているため、写楽を主人公にした場合、必然的に蔦重が登場する)も含めれば、蔦重の登場する作品は小説、漫画を問わず枚挙に暇(いとま)がない。
なぜ、蔦重ものはこんなにも出版界で愛されているのだろうか。
そのヒントは、蔦重の生業(なりわい)である「版元」にある。
記事後半では、創作の世界でなぜ蔦重が愛されるのか、作家の立場から谷津さんが分析します。
商業小説や漫画の世界に身を投…
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