LGBTQ支援 G7前に広がる駐日外交官の輪 日本の対応に注目

編集委員・石合力
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 広島で開かれる主要7カ国首脳会議G7サミット)を前に、駐日外交官らが日本に住む性的マイノリティーの人たちを支援する動きを強めている。議長国日本はG7で唯一、同性カップルに対して国として法的な権利を与えず、LGBTQに関する差別禁止規定や法律がないためだ。

 常設のLGBTQセンターとして昨年4月にできた「プライドセンター大阪」(大阪市北区)。スポンサーとして協賛する企業に加え、関西にある米国、フランスの総領事館、G7のカナダ、2001年に世界で初めて同性婚を法制化したオランダの大使館など計10カ国の外国公館が後援に名を連ねる。

 性的マイノリティーの人たちや仲間が集まり、相談できる大型の常設総合センターとしては「プライドハウス東京レガシー」(東京都新宿区)に次いで全国で2カ所目という。

 ジュール・イルマン在京都フランス総領事は「フランスには支援センターが全国に35カ所あり、国や地方自治体から運営資金が出る。大阪ほどの大都市にこれまでセンターがなく、公的支援もほとんどないと聞いて驚いた」と話す。

 この1年間でセンターを訪れた人は約1400人に上る。運営する認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」の代表村木真紀さんは「学校や職場で差別を受けた、うつ状態になった、医療現場や就業支援の場、住宅探しで差別されたという相談もある。本来なら国や都道府県が指導しなければいけないことではないでしょうか」と話す。

 公的支援が少ない事情について「日本には、性的マイノリティーに対する差別禁止などの基本法がないので、(一元的な)担当省庁もない。担当省庁がなければ大きな予算が取れない」とみる。

 フランスは04年に同性愛者の人に対する差別や否定的な言動を禁止。13年に同性婚が法制化された。イルマンさんは「同性婚ができるようになって10年。もう同性婚はまったく普通のことになった。いま結婚式の3~4%は同性婚です」と話す。外務省にはLGBTQの担当大使がいるほか、各国のフランス大使館にもジェンダー平等やLGBTQの担当者がいるという。

LGBTQ 性的マイノリティーを表す総称の一つ。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる)、クィアやクエスチョニング(自らの性のあり方について、特定の枠に属さない人、わからない人などを表す)の頭文字をとった言葉。Xジェンダー、ノンセクシュアル(非性愛者)らを含めて、LGBT+(プラス)、LGBTQ+なども総称として使われることがある。

 村木さんは昨年、アルゼンチンで開かれた性的マイノリティーの権利拡大に関する多国間会議「平等な権利のための連合」(ERC)に参加した。

 加盟国は日本以外のG7、欧州、中南米、オセアニア地域の計42カ国。「国連加盟国には、サウジアラビアなど同性愛を犯罪とする国がある。ロシアもLGBTQに対して厳しい。これらの国が入る国連の総会やG20では対応が難しい。国家間でLGBTQのことをしっかり扱えるのはG7とERCだと思う」と話す。

 22年から24年までドイツとともにERCの共同議長国を務めるメキシコの在京大使館は8日、性的マイノリティーに関するシンポジウムを開き、村木さんもパネリストで参加した。LGBTQの課題解決を目指す超党派議連の会長を務める自民党岩屋毅防衛相も顔を見せた。中南米は域内19カ国中の9カ国、地域人口の75%が同性婚の法的権利を持つ。

 メキシコは10年に首都メキシコ市で同性婚ができるようになり、15年に全国で同性婚を合法化した。メルバ・プリーア駐日大使は「これこそ日本がすべきことだなどと言うつもりはない。我々の経験を共有することで、同性婚の権利を持つべきかを日本人が決める上でのアイデアや道筋につながるかもしれない」と述べた上でこう語った。「日本でG7が開かれるからこの議論をするということなら、ぜひ議論をしましょう」

 ドイツ大使館のクラウス・フィーツェ首席公使は「ドイツでは第2次大戦中、強制収容所で数千人の同性愛者が殺害されたが、我々の社会は変わった。2001年にゲイのパートナーシップ、17年に同性婚ができるようになった。かつて同性愛は犯罪だったが、今日では同性愛者を差別することが犯罪になる。いま日本では同性婚を認めたら社会が悪くなるのではないかという議論がある。悪影響は全くない。(人権や権利保護など)あらゆる面で非常にいい影響がある」と語った。

「マイノリティーの人権 議長国・日本が放置でいいのか」

 昨年、ドイツで開かれたG7サミットでは、共同声明で性的マイノリティーの人権問題や当事者の権利擁護を盛り込んだ。岸田文雄首相も出席したが、日本ではその後、法整備、当事者支援とも具体化していない。「LGBT理解増進法案」は、超党派で合意した法案の文言を、自民党が党内の保守派議員らに配慮して修正を検討。与党案として国会提出するが、G7前の成立は困難な状況だ。

 「G7が共有する価値観には、マイノリティーにマジョリティーと同じ人権を保障することも含まれていると思う。議長国の日本がLGBTQの人権課題を放置したままでいいのでしょうか」と村木さん。「ロシアのプーチン大統領は、LGBTQに関する情報の拡散や宣伝、示威行為などを禁止・制限する法律に署名するなど、国内でLGBTQの人たちを攻撃し続けてきた。それを国際社会は放置していた。私には、マイノリティーへの人権侵害を放置し続けることで、戦争という、より大きな人権侵害が起きてしまったように思えてなりません」

 イルマンさんはこう語る。「家族のあり方は個人個人それぞれの選択の問題だと思う。同性婚を認めることは、だれかの権利を奪うことではない。一つの(家族)モデルをほかの人に押しつけるのはおかしいことかなと思います」

      ♢(編集委員・石合力

 LGBTQ 性的マイノリティーを表す総称の一つ。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる)、クィアやクエスチョニング(自らの性のあり方について、特定の枠に属さない人、わからない人などを表す)の頭文字をとった言葉。Xジェンダー、ノンセクシュアル(非性愛者)らを含めて、LGBT+(プラス)、LGBTQ+なども総称として使われることがある。

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