戦前にボストン響を指揮したOZAWA 幻の「幻想曲」を世界初演へ

編集委員・石合力
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 昭和初期に欧米で才能が注目された神戸市出身の作曲家大澤壽人(ひさと、1906~53)の幻の作品が没後70年を機に19日、地元で初めて演奏される。戦後、ラジオ番組で演奏された記録があるものの、演奏会では世界初演になるという。

 戦時中の44年に書いた「ベネディクトゥス幻想曲」。オーケストラ、バイオリン独奏に混声合唱が加わる約30分の曲だ。キリスト教との関わりが深かった大澤氏が戦禍を前に音楽を通じて祈りを捧げた曲だ。

 大澤氏の作品の復活演奏に取り組む山田和樹さんが指揮、神戸市室内管弦楽団、神戸市混声合唱団が演奏する。

 大澤氏は関西学院高等商業学部を卒業後の30年にボストン大音楽学部に留学。ニューイングランド音楽院でも学び、ピアノ、コントラバスの協奏曲や交響曲第1番などを作曲した。

 ボストン交響楽団の著名な指揮者、作曲家クーセビツキーに見いだされ、日本人として初めてボストン響を指揮した。

 名字の発音は「おおさわ」だが、滞米中は「おおざわ」を好んでおり、当日のプログラムには「Hisato Ozawa」の名前が残る。

 その後、パリで自作の演奏会を開くなど欧米の楽壇で注目を集め、36年に帰国した。神戸女学院大で教え、映画音楽や宝塚歌劇場の演目を作曲、朝日放送(ABC)の専属指揮者を務めるなど関西を拠点に活躍したが、47歳の若さで急逝した。

 その後、遺族が未出版の自筆譜を保管していることが分かり、山田さんらの演奏や専門家の研究で近年、再評価する動きが進んでいる。

 山田さんは「彼の作品は当時最先端の前衛的な和音、ハーモニーを持っているのが特徴。この曲は西欧の書法で書かれた作品だが日本人の血もどこかに感じられる。興味をひく演奏になるだろう」と語る。

 大澤氏に詳しい音楽評論家片山杜秀氏は「戦時中の極限の状況下で委嘱ではなく、自由意思で書かれた作品だ。日本の近代を代表する作曲家で完成されたテクニックを持っている。東京芸大など日本の楽壇との関わりが薄かったため、演奏や録音がほとんど残っておらず長い間、黙殺されていた。実際に演奏することで音楽史に欠けていたパズルを埋めることができるのではないか」と話す。

 演奏会は19日午後6時半、神戸文化ホール大ホール。開館50周年のガラ・コンサート「神戸から未来へ」で。問い合わせは同ホール(078・351・3349)。(編集委員・石合力

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    田中知之
    (音楽プロデューサー・選曲家)
    2023年5月16日17時53分 投稿
    【視点】

    東京オリンピック、パラリンピックの開閉会式のプロトコルパートで使用するために、日本人作曲家による交響楽作品を色々掘り下げて研究していた中で、私は大澤壽人の作品にも出会った。Spotifyなどサブスクリプション音楽配信サービスにも彼の作品はア

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