「お風呂が沸きました」の一龍斎貞弥さん ステージ4のがんとの闘い

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井上秀樹
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 講談師の一龍斎貞弥(いちりゅうさいていや)さん(59)は、外資系ホテル勤務を経て、声優となった。

 「お風呂が沸きました」の給湯器の声や、カーナビの声などで知られる。

 20年ほど前、「表現の幅を広げたい」と受けた伝統芸能のセミナーで、講談と出会った。

 小さかった娘の成長を待ち、抱えていた仕事を整理した2007年、満を持してセミナーで講師を務めていた一龍斎貞花(ていか)さん(84)に入門した。すでに40歳を過ぎていた。

 入門4年で二つ目に昇進。講談師と声優を両立させる、充実した日々だった。

 18年夏から、腹がキリキリするようになった。痛みは不規則にやってきて、近所の消化器科クリニックへ通った。吐き気や胸焼けを和らげる薬をもらうと、短い期間で治まったこともあり「体が弱ってたんだね」と思った。

 だが次第にご飯がおいしくなくなり、食欲がなくなった。以前なら5、6時間横になると治まっていたおなかの痛みは、薬を飲んでも治らなくなった。

 消化のいいうどんやおかゆを食べても、毎日のように吐き、下痢が続く。とうとう口から食べ物を入れられなくなった。

 それでも仕事は休まなかった。

 20年11月下旬には東京・両国の江戸東京博物館で、イベントの司会と高座を務めた。

 朝から吐き気があり、脂汗を流すほどの腹痛だったが、顔には出さないようにした。

 一緒に出演した師匠の貞花さんを駅で「おつかれさま」と見送った後、トイレに駆け込んで吐いた。

 ゴボゴボ、グルグル。

 腹から、雷のように大きな音がした。

 激痛で眠れない夜が続いても「そんな大きな病気のはずがない」と、心のどこかで思っていた。

医師が思わず言った「すみません」

 医師の勧めでCT検査を受け…

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