「こんな田舎の島に大国の支援の話が次々と舞い込むんです。我々も信じられません」
日本から南西に4800キロ。インドネシアのナトゥナ諸島は、マレー半島とボルネオ(カリマンタン島)に挟まれた、南シナ海の南端にある。
いまここに、地元当局幹部が驚くほどの外国からの支援の申し出が相次いでいる。何が起きているのか。
連載「ウミタギル 南シナ海、米中対立の現場から」
南シナ海などで、米中のせめぎ合いが高まりを見せている。6月2~4日にシンガポールで開かれるアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)を前に、現場を記者が訪ねた。
4月上旬、首都ジャカルタから飛行機を乗り継いで約4時間、底まで見える透き通った海に囲まれた最大の島、大ナトゥナ島に降り立った。広さは約1700平方キロメートル。日本の香川県と同じくらいの面積だ。
そこから車で約2時間、海沿いの道を南へ進むと、南端のスラットランパにたどり着く。ここに島最大の漁港がある。岸壁のすぐ近くでも最大約20メートルの深さがあり、大型漁船が停泊できる。近くには海軍の基地もある。
漁港の責任者ムハンマド・ロピンドラさん(36)が、海を眺めながら、こう教えてくれた。
「これから桟橋を延ばし、船着き場を増やします。日本の支援で、冷凍施設や加工場などの最新設備を備えた漁港に生まれ変わる予定です」
ナトゥナ諸島は漁業で成り立っている。人口約8万3000人の約4割が漁業関係の仕事に就いている。サンゴ礁に囲まれた豊かな漁場があり、ハタやフエダイなどが特産。市場に並ぶ新鮮なカツオは島民の日々の食卓に欠かせない食材だ。
地元当局によると、実現すれば、ナトゥナ諸島にもたらされる初の外国の支援となるという。
日本は現在の漁港を「小さな豊洲市場」(日本政府関係者)に増強する計画を進めている。
それは、2018年にインドネシアと日本の間で結ばれたある契約から始まった。
■中国が念頭の新漁港…