気候危機、住宅政策、大阪維新の会…いま注目の論考は

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 朝日新聞には毎月、雑誌やネットで公開される注目の論考を紹介する「論壇時評」という欄があります。時評を執筆する宇野重規さんと6人の論壇委員は月に1回、注目の論考や時事問題について意見を交わします。各分野の一線で活躍する論壇委員が薦める論考を紹介します。(「*」はデジタル)

板橋拓己=国際・歴史

△池内恵「『多極世界』の誘惑に揺れる中東」(Voice6月号)

<評>今年3月の中国を仲介者としたサウジアラビアとイランの国交正常化合意は衝撃だった。池内によると、これは中東の地域秩序の巨大な変容の一側面で、並行して複数の外交関係改善や友敵関係の組み替えが進んでいる。

  米国が「中東疲れ」から存在感を失い、各地域大国の「多極世界」への欲求に中国が介在するなか、日本が懸念すべきは、しばしば言われる「中東の不安定化」よりも、中国の仲介による中東の安定化により、石油・天然ガスを得にくくなる事態だと論じる。

△松嵜英也「ウクライナのオリガルヒと汚職 EU加盟に立ちはだかる『非公式制度』」(フォーサイト、4月25日*、https://www.fsight.jp/articles/-/49719)

△フィンタン・オトゥール「イギリスは統一を維持できるのか 構成地域ナショナリズムと連合王国」(フォーリン・アフェアーズ・リポート5月号)

金森有子=環境・科学

△江守正多「気候再生のために IPCCのメッセージと日本人の無関心」(世界6月号)

<評>国連が3月に公表した「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の評価報告書の統合報告書を受けた論考。日本では気候危機に対して関心が低い。これでは脱炭素政策に対し、政治や行政が政策を提案する動機を持たず、政策への支持が広がらない。

  他国では気候変動問題に関心の高い人が政府や企業を動かし、日本にも外圧をかける。その結果、日本の脱炭素政策は受動的に講じられているが、これでは常に後手に回り、国際競争上の不利が生じる可能性があると論じる。

△天野馨南子「女性がリードする地方からの人口流出 正規雇用の拡大が課題」(中央公論6月号)

△具志堅浩二「プラ新法施行1年 プラごみ一括回収・再製品化は緒についたばかり」(週刊エコノミストオンライン、5月15日* https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230530/se1/00m/020/045000c)

砂原庸介=政治・地方政治

△平山洋介「木賃アパートと住宅政策」(都市問題5月号)

<評>狭くて粗悪など、住宅としての質が低い木造・賃貸アパートは、低家賃のため、人々が地方から大都市に流入し、社会的地位を上昇させる機会を開く「足がかり」として期待されてきた。しかし、高齢・単身者は長く住むケースが増えている。

  木賃アパートは「仮住まい」として公的支援が十分に行われてこなかったが、定住の場としての性格が無視できないという前提で、住宅政策を見直し、低家賃住宅としての質を改善するべきだとの指摘は重要だ。

△宮下悠樹「大地震後も『社会増』、北海道の小さな町の挑戦」(中央公論6月号)

△大山礼子「地方議会はいらない? 議員の多様化を進めるために」(世界6月号)

 

中室牧子=経済・教育

△高橋遼、伊芸研吾「黙食見直し、給食時に会話 小中の学級閉鎖は増えたか」(週刊東洋経済5月13日号)

<評>給食の「黙食」は、感染対策として有効だとの主張がある一方、子どものメンタルヘルスに悪影響があるとの声も強い。論考は、千葉県のデータから、黙食を見直した後に感染が拡大している様子は観察されないという結果を示している。

  感染状況によっては、飲食店の営業に制限がつかない政策が行われていたにもかかわらず、給食中の黙食は2年もの間継続された。教育効果と感染対策のバランスを欠いた政策となっていなかったか、検証が必要である。

△仲田泰祐「政策決定に欠けていた多様な議論」(Voice6月号)

△川田恵介「2010年代以降の雇用 世界と日本の傾向に違いも」(週刊東洋経済4月29日・5月6日合併号)

 

安田峰俊=現代社会・アジア

△飯田悠哉「棄(す)てさせられているのは誰か? システマティックな侮辱としての『廃棄労働』」(POSSE53号)

<評>まだ食べられる食品・食材を廃棄する仕事について、筆者は「端的にいえば恥辱」ゆえに、心理的ストレスや過剰適応を引き起こすと指摘。かつてはこうした仕事の担い手に日本人もいたが、今ではほとんどが外国人労働者だ。倫理に反する業務を「無声化」された人々に担わせるいびつな構造だと論じる。

  従来、外国人労働者の問題は、低賃金や待遇といったシステム的な面に着目することが多かった。労働内容の非人間性に着目する論考は珍しい。

綿矢りさ「パッキパキ北京」(すばる6月号)

△レジー「ファスト教養が社会を覆う 数と刺激とSNS」(世界6月号)

 

青井未帆=憲法

△吉弘憲介「検証・大阪維新の会の財政運営 普遍主義に潜む社会的分断」(世界6月号)

<評>大阪維新の会が行ってきた政策を地方財政運営から明らかにする。維新の会は普遍主義的な「頭割りの配分」を志向しているが、均衡財政を前提とするため、これまで配分を受けてきた人から資源を取り上げることを意味する。現代の経済格差の是正には不十分であり、個別具体の財政需要の調整を軽視していると指摘。

  「普遍化」の背後にある排除を鋭く描き出す論考である。

△上田健介「憲法審査会のあり方について」(法律時報5月号)

△佐々木実、若森みどり、間宮陽介「カール・ポランニーと宇沢弘文 『人間の自由』と『制度』をめぐって」(世界6月号)

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