高層ビルが立ち並ぶカンボジア南部の海辺の街シアヌークビル。一見、開発が進んだリゾート地然としているが、目をこらすと、コンクリートがむきだしのまま放置されたビルが林立している。
現地の人々が「ゴーストビル」と呼ぶ建物だ。
「見渡す限り全てのビルが中国の投資で建てられた。一時は大勢の中国人観光客でにぎわったけど、今はさっぱりだね。ゴーストビルばかりが増えたよ」
遊覧船ガイドのキー・ラタナーさん(34)は、浜辺でたばこをふかしながらそう話す。今は1日に数組の客があればよい方だ。
のどかな海辺に、中国からの投資が急増したのは2017年ごろ。カジノなどができて、たった数年でシアヌークビルはギャンブルの街と化した。犯罪も目立つようになった。
手を焼いた政府が規制に乗り出すと、投資はぱたりと途絶えた。現地報道では、規制後にカンボジアを去った中国人は約45万人にも上ったという。
そこにコロナ禍も加わり、残されたのがゴーストビルだ。
地元メディアによると、1000棟以上あるビルの約4割を占めているという。夜になると、漢字ずくめのネオン街のすぐ隣に、ゴーストビル群の暗闇が広がる。
かつて日本が最大の援助国だったカンボジアだが、いまは中国が圧倒的な存在感をみせる。13年に中国の習近平国家主席は巨大経済圏構想「一帯一路」を打ち出し、その要衝にカンボジアを位置づけた。空港や高速道路などインフラ援助の恩恵を受けてカンボジアは、中国に経済的に取り込まれていった。政治的にも、1985年から首相の座にあるフン・セン氏は権威主義的な傾向を強め、これも「中国化」に拍車をかけたと指摘されている。
首都プノンペンから自動車で5時間ほどの道のりだったシアヌークビルは、2022年に中国の支援で高速道路が開通し、所要時間は半分ほどになった。シアヌークビルの経済特区には多くの中国企業が進出した。その一方で、ゴーストビルに代表されるように、商機がなくなると見るや中国企業の撤退は速い。カンボジアは、街の発展も衰退も、中国の動向に大きく左右されるようになった。
ただ、中国によるカンボジアの取り込みは、経済面だけではないようだ。
記事後半では、中国軍との関係が指摘されるカンボジアの海軍基地やリゾート開発地についてルポします。
シアヌークビルの中心部から…
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