第5回発達障害の社員が求める配慮「わがままではなく企業成長のチャンス」
「発達障害なので、働くときに配慮をお願いしたい」――。従業員にそう告げられたとき、会社はどう対応したらよいのでしょう。障害がある人への合理的配慮は、障害者雇用促進法で雇い主に義務づけられていますが、戸惑う企業も少なくないといいます。発達障害の人の就労を支援する企業「Kaien」法人担当ディレクターの大野順平さんは、「これをチャンスととらえて欲しい」といいます。
――発達障害の人への配慮をめぐる企業からの問い合わせは、たくさんありますか。
どう対応したらよいのか、という問題意識を抱いている企業は多いと感じています。障害者雇用枠で雇い入れる場合のほか、一般枠で採用した後に障害がわかって申し出があったときにどうするか、という問い合わせも多いです。
身体に障害のある方への物理的な配慮と異なり、発達障害の方の求めている配慮や困りごとは非常に多様です。企業に限らず私たちも、試行錯誤しながら参照事例をつくっている最中です(=文末に参照事例)。
困りごとを伝えるのが苦手な人も
――発達障害ならではの難しさとは。
法律が定める合理的配慮は、「本人が主体的に意思を表明し、どう対処して欲しいのかを、自分から企業に提案していく」ことを前提にしています。
一方で、発達障害の人は特性上、何をどう困っているのかを言語化したり、解決手段をうまく示したりすることが苦手な方も多くいます。
また、発達障害が生まれながらの特性であるという、発達障害そのものへの理解が企業の側に浸透していない実態もあり、どうしても誤解されてしまいがちです。
――たとえばどんなことですか。
光や音に敏感な「感覚過敏」という特性がありますが、周囲の音が気になるので席の配置を変えて欲しいと申し出ても、わがままと受け取られてしまうことがあります。
また、ものごとの緩急を付けることが苦手で、常に全力疾走してしまう人も多くいます。疲れやすいので、1日8時間、連続して勤務することが難しい。「易疲労性」といいますが、そういう特性のある人が休憩を申し出たときに、頻度が多いと「さぼっている」と受け止められることもあります。
――こうした状況の場合、どんなアドバイスをするのですか。
企業にコンサルティングするときには、感覚過敏なら、まずは出入り口から遠い隅の席など、席の配置を検討していただきます。また、机にパーティション(仕切り板)を置くことも、視野が遮られるので効果的です。
疲れやすい方の場合、すぐに短時間勤務に切り替えるのではなく、上限を決めて勤務時間中に横になることを認めたり、おもいきって在宅勤務に切り替えたりすることなどを提案しています。
――研修もしているそうですね。
当事者が配属される職場に対して、発達障害についての一般的な知識や、その方の特徴について伝えるなど、受け入れる前にレクチャーを行うこともあります。
職場の側が、発達障害の特性の多様さについて理解を深めていくこと、そして、話しやすい環境を作ることが大切だと思います。
採用後にわかるのは「後出し」?
――採用前は本人も障害に気づいていなかったり、気づいていても開示する必要性を感じていなかったりして、採用後に障害がわかるケースもあります。企業と当事者がうまく歩み寄るにはどうしたらよいのでしょう。
残念ながら、障害を「後出しされた」「聞いていた話と違う」という受けとめになってしまうケースもあります。背景には、「障害者雇用ではないのに、配慮を求めるのはわがままだ」といった、スティグマのようなものがあるように感じています。
かつて日本における障害者雇用は、福祉的な意味合いが色濃いものでした。
でも今は、障害者への配慮というよりは、働いて活躍するために支障となっていることに着目しましょう、課題を解決して対等な戦力として活躍してもらいましょうと、よりフラットな目線に変わってきています。
企業には、発達障害を「障害」の視点から捉えるのではなく、「個性」の視点から捉えていただきたいですね。その人がどうしたら力を発揮しうるかを一緒に考える、マネジメントの延長線上で考えてもらえるといいなと思います。
――具体的には?
たとえば、障害の有無にかかわらず、入社後にすべての社員に対して、アコモデーション(配慮)の面談をおこなっている企業があります。上司とのコミュニケーションは対面がよいか、チャット中心がよいかなど、発達障害だけでなく、介護や子育て、持病など、生活面もふくめた状況を聞き取るそうです。
これは多様な人たちが力を発揮しやすくなり、会社が活性化していく手段だと思います。
このように、一人一人が働きやすい環境を整えることの延長線上で、発達障害についても一緒にとらえていくといいのではないかと思います。
「できない」と責めず、一緒に考える
――合理的配慮を提供するとき、職場や上司の負担はどれくらい増えるのでしょう。
上司の方には、一対一の面談やコミュニケーションの時間を多めにとっていただくことに加え、成長を長い目で見ていただくことをお願いしています。
「なぜできないのか」と叱責(しっせき)するのではなく、なぜうまくいかないのかを「一緒に考える」という姿勢です。
上司は作業を指示し、結果を確認することが多いですが、発達障害の人たちはその「行間」の部分が苦手なことが多いのです。業務を把握して、やることをリスト化し、優先順位をつけて、作業をする。これらを自分でできるようになるまでには時間がかかりますので、伴走し、コミュニケーションを増やすことが大切です。
一時的に上司側の負担は増えるかもしれませんが、不調が出て休職してしまうよりもずっと、ポジティブなスパイラルが回りやすくなると思います。
本人から発達障害の申し出があったら、企業は「仕事のパフォーマンスを上げるチャンスだ」と捉えるといいのではないかと思います。(聞き手・鈴木彩子、熊井洋美)
発達障害の特性に対する合理的配慮の対応事例
●「感覚過敏があり、同僚の話し声などが気になって業務に集中するのが困難です」
→席の配置を検討する。できる限りフロアの隅の方の席を確保する。
→人の動きが気になる場合は、壁に向かって業務を行ったり、机にパーティションを置いたりする。
→使わない電話は卓上から取り外す。
●「口頭で指示を受け取るのが苦手です(忘れてしまいます)」
→努力不足や不真面目ではなく、脳の「短期記憶」に困難がある状態。手書きのメモを添える、チャットツールを併用するなど、記録が残る媒体でコミュニケーションする。
●「働きたい気持ちはありますが、疲れやすく体力が持ちません」
→安易に短時間勤務に切り替えるのではなく、上限を決めて業務時間中に横になって休むことを許可する、などを検討する。
→在宅勤務への切り替えも選択肢。
●「先の見通しがつかない状況が苦手です。臨機応変な対応が困難で、突発的な状況にパニックになりやすいです」
→臨機応変な対応が求められる仕事よりは、マニュアルに基づいて正確な作業が求められる仕事などを任せる。
→業務指導のときは、業務の全体像を伝え、その中での位置づけを伝えると理解が早くミスが少なくなる。
(Kaienの資料をもとに作成)
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