ChatGPT(チャットGPT)は「重力」と同じで逆らえない。ならば、コントロールを考えるべきだ――。そんなポリシーで、対話型人工知能(AI)を積極的に授業に採り入れ始めた学校が、ドイツの田舎町にある。その斬新な授業をのぞいてみると、教育とAIの新たな形が見えてきた。
ドイツ南西部、人口約4万人の田舎町フランケンタール。5月2日午前10時、カロリネン・ギムナジウム(日本の中学・高校に相当)の教室に男女11人が集まった。ほとんどが18歳。来年、大学入学するための資格試験に向け、歴史上級コースを選択した生徒たちだ。
この日の授業は、「ナチス時代のプロパガンダ」がテーマ。宿題はプロパガンダの定義だった。
「宿題を発表をしてくれる人はいる? ジョエル、どうかしら?」
担当教師のカリン・ライセルマーラ副校長が呼びかけると、ジョエル・レンケさん(18)が自分のタブレット端末を見ながら、すらすらと答えた。
「はい、よくできました! 出典は?」
「チャットGPTです。あ、もちろん、自分でもいろいろ調べましたが」
教室に笑いが広がる。ライセルマーラ副校長も、タブレット端末をかざして言う。
「私もチャットGPTで答えを用意してきたんだけど、あなたの方ができがいいわ」
はにかみ顔でジョエルさんが言う。「僕はチャットGPTに賢い聞き方をしたんです。歴史上級コースのレベルでお願いって」
ライセルマーラ副校長が、チャットGPTの存在を知ったのは昨年11月。授業で生徒に尋ねると、類似するツールを使ったことがあるという生徒が14人中1人いるだけだった。
「チャットGPTはいずれ学校教育を変える存在になるに違いない。手を打つなら生徒に広まっていない今しかない」。そう直感したライセルマーラ副校長は、いち早く授業に導入して活用法や注意点を見極めるべきだと学校で訴えた。
「頭が半分はげた人は髪の毛500本。じゃあ、完全にはげた人は何本?」。低学年のクラスで、いたずら好きな女の子がチャットGPTに、こんななぞなぞを出しました。AIがはじき出した答えとは? 記事後半でどうぞ。
「いずれ生徒はチャットGPTを家で使うようになる。だったら、学校が先手を打ってコントロールすべきだ」。クリスチアン・バイエル校長の決断で、昨年12月からライセルマーラ副校長が担当する歴史と英語の上級クラス限定で試験導入が決まった。
トランプ流スピーチ、チャットGPTに書かせてみたら
問題はいかに使うか、だった。ライセルマーラ副校長の試行錯誤が始まった。
ある日の歴史の授業。第1次…
- 【解説】
「私たちはAIから恩恵を受けているだけでなく、今まさに私たちの手によってAIを育てている。それを子どもたちと実感できた」という記述がありますが,チャットGPTが「いたずら好きの女子生徒の質問」を元に知識をアップデートしたということはおそらく
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