大谷選手や爆弾もデザイン 逆風のハンコ「もっと自由に」職人の挑戦
コロナ禍をきっかけに行政や企業で脱ハンコが進むなか、文字デザインに光を当てた個展が大阪市内で開かれている。印章彫刻で現代の名工に選ばれた三田村薫さん(63)が、実印を「アート」として表現した。
直径15ミリの円の中に、植物のつるのような曲線で文字を描く。三田村さんが手がける実印はすべてフリーハンド。デザインの美しさに、根強いファンも多い。
高松市で5年間修業し、1996年に大阪市内で独立した。2014年に現代の名工に選ばれ、17年には黄綬褒章(おうじゅほうしょう)を受章した。
しかし、コロナ禍でデジタル化が進み、ハンコは「リモートワークの邪魔者」だとされた。必死に身につけてきた技術はもういらない。そう言われているようで寂しかった。
印章技術を守りたい。何より、「苦労して磨いてきた技術を世に発表したい」。作品を披露することはないと思っていたが、コロナ禍を機に決意した。
発表するのは、実印の基になる、字で描いたデザインの「描印(かきいん)」。米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手や俳優の松本潤さんといった有名人や、大阪にゆかりのある八つの文学作品を題材にした。
たとえば、大阪市出身の梶井基次郎の「檸檬(れもん)」にちなみ、檸檬の文字が入った描印に導火線を付け、爆弾のようなデザインに。実印サイズの15ミリを飛び出し、自由に表現した。
個展では、こうした作品を約25点展示している。三田村さんは「個展をきっかけに、身の回りにある美に気付いてくれたらうれしい」と話す。
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個展「はんこと大阪の文学」は28日まで、大阪市西区靱本町1丁目の「ギャラリー メゾンダール」で開催。午前10時~午後5時(最終日は午後4時まで)。入場無料。(西晃奈)