ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長として移民や共生について発信するライターの望月優大さんが問いかけた「自分にとって大切なルーツはありますか?」。地域の歴史を見つめ直したり、忘れられない過去と向き合ったり、「記憶」をめぐる様々な声が寄せられました。それに対する「Re:」とともに、望月さん自身が語る「大切なルーツ」とは。
「日本のことを何も知らない」に共感
SDGsジャパン理事の長島美紀さんは、朝日新聞デジタルのコメントプラスで「生物多様性に関連した仕事をした際に国内各地を視察する機会を得たのですが、改めて気づいたのが『自分は日本のことを何も知らない』ということでした」とコメントしました。
さらに「そこから各地の歴史や自然、自然が生み出す多様な文化への関心、各地で出会う人との交流を楽しみながら発見、その発見や気づきがあるからこそ、日本以外の文化や自然、人へのリスペクトが生まれる」とつづりました。
【Re:】「日本のことを何も知らない」という言葉にすごく共感します。何かを「自分のこと」だと思ってしまった時に「知っている」という錯覚に陥ってしまう。色んなことを知らないのに知ったかのように思い込んでしまう危険があります。
国家や「○○人」といったとらえ方は、自分が具体的に経験できるものよりもすごく大きなものを「自分のこと」として短絡的に直結させる想像力、社会的な仕組みです。それが近代以降ある意味ではうまく機能した結果として、その中にある多様性や複雑さを見えにくくしているように思います。
だからこそ、「日本」や「日本人」について自明だと思っていることを崩していく、何を知らないのかを探求していくことが大事ではないかと思います。
失われる地域の歴史 「私たち」の記憶を刻む
ジャーナリスト・コンサルタントの座安あきのさんは、沖縄の地方紙に身を置いた経験から「海外移民、沖縄戦、米軍統治、本土復帰の混沌(こんとん)を生きた葛藤の渦にあって、新聞・メディアそのものが、沖縄の人々のアイデンティティーやルーツと直結していた」とコメントしました。
一方で「戦争の記憶が薄れ、様々な経験を背負った世代が入り交じり、SNSが多様な地域の多様な『言論』を拾い上げる中、地域の『自分事』の中身が玉虫色であることに気付かされます」とも。「新聞業のビジネスモデルの維持が困難になるという不可逆的な流れが覆い被(かぶ)さってきた」とメディアの今後に危機感を示しました。
【Re:】沖縄や日本など色々な捉え方があると思いますが、記者やメディアの仕事は、ある「私たち」や「社会」について、そこで一緒に暮らしている人たちにとっての歴史や記憶を刻んでいくことでもあると思います。
書く人が少なくなっていく、カバーできる範囲が狭くなっていく、その仕事が経済的に逆境にあったり立ち行かなくなったりしてきているということは、集合的に記憶し、歴史を記していくことの難しさにもつながります。
色々な人の証言を聞いたり様々な事実を集めて書いたりという時間や労力のかかる仕事ができなくなっていけばいくほど、事実と異なる歴史への書き換えも容易になっていく。それに対して「違うのでは」という声が響きづらい状況が生まれてしまう。
社会の歴史や記憶やルーツを刻んでいくことがどんどん困難になっていき、書き記されていない空白が増えれば増えるほど、社会を脆弱(ぜいじゃく)にする可能性があると思います。
多様な「ルーツ」のとらえ方 何を残せるのか
「ルーツ」をより広い概念としてとらえ、自身の原点を見つめ直す声もありました。
「自分のルーツを知って考えることが自分以外の誰かのルーツを大切にできることにつながる、という言葉にハッとさせらた」という50代の読者からのおたより。
6歳の時にいとこが土管の下敷きになったシロツメクサを助けたという一場面を思い起こし、「驚いたと同時に、初めて視点が自分自身から他者へ、しかも道端の草の視点に切り替わり、気持ちや痛みを考えてみるという原体験をした」「情報があふれ、記憶喪失になりかけている時代の中で、たまには自分の中の“忘れられない記憶”を鑑賞するのも、豊かなひとときになる」とありました。
【Re:】ルーツをどう捉えるかといったときに、「日本人」のような属性との関連だけで捉える必要はないと私も思います。家族や友達との経験、文学や映画など、それぞれにとって、自分自身のルーツになっていると感じるものは違うでしょう。
インターネットで個人が発信しやすくなり、多くの人の多様な行動や思いが記録として残るようになりました。けれども、誰かがツイッターに書きつづった内容を100年後にほかの誰かが参照できる可能性は必ずしも高くありません。イーロン・マスクが休眠アカウントを削除すると表明したように、貴重な情報がいつの間にか全部なくなってしまう可能性もあります。ネットが可能にしたことと、その限界というか盲点みたいなところです。紙の日記のほうが残る可能性もあります。
自分たちが何を残すのか、何…