自動運転車の運行始まる 廃線跡の遊歩道、10分100円の乗り心地
福井県永平寺町で28日、国内で初めて公道での本格的な自動運転を行う「レベル4」の営業運行が始まった。ゴルフカートに似た7人乗りの電動車が、廃線跡の遊歩道「永平寺参ろーど」(約6キロ)のうち約2キロ区間を、ドライバーなしで走る。どんな乗り心地なのか。記者が乗車してみた。
28日午前。荒谷停留所を出発する便に乗り込んだ。ほかに乗客は3人。大人運賃100円は、座席前の箱に入れる。シートベルトは保安基準上、必要ないが、転落防止のため、乗り込み部分にベルトがついている。
「発車します。手すりにおつかまりください」。案内音声が流れ、静かに車両が動き出した。道幅は約3メートル、ゆるやかな上り坂。近くで鳥のさえずりが聞こえる。風が気持ちよい。
時速は最大12キロ。自転車と同じくらいかやや遅め。揺れもさほど感じない。
しばらく進むと、前方に道端を歩く男性の姿があり、車は急に減速した。さらに数分進むと、向こうから別の自動運転車がやってきた。すれ違いのため、いったん停止。対向車が通過すると、また動き出した。こうした操縦や加減速、停止は、取り付けられたカメラやセンサーで情報を集約したシステムがすべて行う。
新緑の風景を楽しんでいるうちに、終点の志比停留所に到着した。約10分の旅。あっという間だった。
折り返しの便にも乗った。すると、前方に歩行者がいた際に「緊急停止します」とアナウンス。座席に置いたかばんが足元に落ちた。歩行者との距離は数メートル離れていたが、センサーが反応したのだろうか。急に止まり、ちょっと驚いた。
同乗していた愛知県の50代男性は「ドライバー不足が言われるなか、こうしたサービスが各地に広がれば」。福井市の60代のパート女性は「年をとれば、免許返納もありうるので(自動運転に)興味がある。こんな夢のような技術が実現するなんて」と話した。
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自動運転のレベルは5段階で、最高のレベル5はどの区間でも走行できるが、今回は、特定の区間や条件のもとで「完全自動運転」するレベル4。レベル3では緊急時に運転者がその場で遠隔で操作する必要があったが、レベル4は何かあればまず自動停止して、その後に人間が対応すればよい。
同町では2021年3月から町の第三セクターが同区間でレベル3での運行を始めた。今年4月の改正道路交通法施行でレベル4が解禁され、国立研究開発法人産業技術総合研究所などが新たに開発した車両で許可を得た。
今回の車両は、レベル3よりも車外を監視するカメラを増やすとともに、障害物を検知するためミリ波レーダーを用いている。
実証実験をしていた18年ごろは、大きなガが横切るだけで停止することがあったが、システムの進化でそうしたことはなくなったという。
ただ、課題もある。
町によると、レベル3運行時の乗客数は、観光客を中心に1日平均10人ほどだったという。
28日、乗客からは「距離を延ばし、永平寺口駅までつないでほしい」との声が複数聞かれた。
だが、いまのところ具体的な計画はない。「永平寺参ろーど」の残りの4キロ区間には、国道や町道などと交差する地点が十数カ所ある。無人運転の営業運行は技術的にも採算的にも難しいという。
町は地域住民がドライバーを務めるデマンドタクシー「近助タクシー」を導入しており、こちらが地元の高齢者の「生活の足」となっている現状もある。(永井啓子)
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