「人間よどこに向かう」元証券マンの住職はつづる 会報400号に

小沢邦男
[PR]

 岡山県倉敷市早高の浄土真宗「心光寺」の住職。寺を起こした1990年から毎月発行してきた会報「ともしび」が、5月に400号に達した。報道などで話題になる国内外の事件や災害、時事問題などを素材に、奥原曇龍(どんりゅう)さん(74)は仏教の教えを自身の言葉に置き換えて届け続けている。

 B4判1枚の裏表で約2万部発行している。400号のタイトルは「人生は短し」。コロナ禍の緩和で参拝者が気兼ねなく法要に臨めたことを喜ぶ一方で、音楽家の坂本龍一さん、ムツゴロウこと畑正憲さんが生涯を閉じたことについて紙面を大きく割いた。

 芸術家の人生は短いが、優れた作品は作者の死後も後世に残る、と精進した坂本さん。動物と家族のように接して心のふれあいの大切さを説いた畑さん。個性豊かな歩みで新しい世界を切り開いた2人に感謝しつつ、こんな短歌で締めた。

 「人間よどこに向かって進むのか 心ふれ合う場所をつくろう」

 岡山市南区の寺の次男として生まれた。大学を卒業して証券マンとなったが、3年余りで仏門へ。「なんまんだぶ」といつも静かに孫の自分を拝んで守ってくれた祖母の生き方に強く感化され、浄土真宗を開いた親鸞聖人の教えに安らぎを覚えた。

 倉敷市内の借家で実家の分院として寺を設立したのは平成の初め。寺と自分を知ってもらおうと会報を新聞に折り込み始めた。題字の「ともしび」は天台宗の宗祖・最澄が残した「一隅を照らす これ国宝なり」にちなんだ。人生に悩み、傷ついている人の心のともしびになろうとの思いを込めた。

 その時々の耳目を引いたニュースが仏様や親鸞聖人の目にはどう映るか。そんな見方で原稿を書く。2018年8月号で取り上げたのは倉敷市が襲われた西日本豪雨地球温暖化による環境異変を深刻に考えない私たちを戒めた。「人間は死んだらおしまいではない。次世代によりよい環境を残す使命がある」

 コロナ禍に加え、最近はロシアによるウクライナ侵攻に関する記載が絶えない。「感染症や戦争といった『災害』が私たちの生活を混乱させ、平時に築いたシステムや信頼関係を破壊する」。そうした混乱続きの生活を、仏様の教えに触れて乗り越えてほしい。1行31文字を45行。書き切れないことも多いが訴えを凝縮させる。

 300号に達した8年前は「500号までは続けたい」。昨秋に不整脈で手術。70歳を超えて「毎号毎号が勝負」と方針を変えた。半世紀近く仏教を学んできたが、取り上げたいニュースにどんな教えが当てはまるのか迷うこともある。「学びが足りない」。まだまだ仏教への理解を深めたい。こう己を奮い立たせて次号へと向かう。(小沢邦男)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません