「暴論」封じて温存される人間の醜さ 真梨幸子さんが語る「悪の心」
言うべきではないことをあえて口走る。極端な意見を確信犯的に投げかける。今はそんな暴言や暴論がはびこり、人間の暗部が表に出やすい時代なのでしょうか。
悪意、ねたみ、嫉妬、うらみ、差別意識といった人間の醜さ満載の人物たちをユーモアを交えて描き、「イヤミス」(嫌な読後感を残すミステリー)の名手と呼ばれる、作家の真梨幸子さんに聞いてみました。
――「私の記憶に残る暴言」というテーマで原稿を依頼されたら何を書きますか。
「20代の会社員時代の話を書きますね。部長が社員の集まる朝礼のような席で、こう言い放ったんです。『中途採用の社員は、新卒を招き入れるために窓を大きく開けたら入ってきたハエだ』。私も中途入社だったので、驚きました。みんな凍りついていました」
――上司は何を言おうとした、と?
「各企業で新卒を奪いあっていた昭和の昔、バブル時代でした。『中途はハエ』が本音だったんでしょう。ただ、本人はブラックジョーク的に中途入社組を叱咤(しった)しようとしていたのかもしれません。中途採用組が数多くいて、立派な戦力だったのですから」
――「ウケ狙い」の意図があった?
「暴論や暴言のひとつの典型です。政治家や企業幹部などが起こす舌禍事件は、この手が多いです。面白く話そうとして踏み外し、大きな問題となる。本人はブラックジョークのつもりですが、トーク力の欠如です。ブラックジョークは非常に高度なテクニックが必要で、芸人さんたちを見習ったほうがいい。危なそうなポイントに話が来たら、詳しく縦に掘ろうとせず、話題を横に展開しないといけないんです。失言は基本的にはトーク力、どう語るかが引き起こす問題だと思います」
「レディーゴー」で戦闘状態へ
――先日話題になった「高齢…
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