「暴論」封じて温存される人間の醜さ 真梨幸子さんが語る「悪の心」

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聞き手 中島鉄郎
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 言うべきではないことをあえて口走る。極端な意見を確信犯的に投げかける。今はそんな暴言や暴論がはびこり、人間の暗部が表に出やすい時代なのでしょうか。

 悪意、ねたみ、嫉妬、うらみ、差別意識といった人間の醜さ満載の人物たちをユーモアを交えて描き、「イヤミス」(嫌な読後感を残すミステリー)の名手と呼ばれる、作家の真梨幸子さんに聞いてみました。

 ――「私の記憶に残る暴言」というテーマで原稿を依頼されたら何を書きますか。

 「20代の会社員時代の話を書きますね。部長が社員の集まる朝礼のような席で、こう言い放ったんです。『中途採用の社員は、新卒を招き入れるために窓を大きく開けたら入ってきたハエだ』。私も中途入社だったので、驚きました。みんな凍りついていました」

 ――上司は何を言おうとした、と?

 「各企業で新卒を奪いあっていた昭和の昔、バブル時代でした。『中途はハエ』が本音だったんでしょう。ただ、本人はブラックジョーク的に中途入社組を叱咤(しった)しようとしていたのかもしれません。中途採用組が数多くいて、立派な戦力だったのですから」

 ――「ウケ狙い」の意図があった?

 「暴論や暴言のひとつの典型です。政治家や企業幹部などが起こす舌禍事件は、この手が多いです。面白く話そうとして踏み外し、大きな問題となる。本人はブラックジョークのつもりですが、トーク力の欠如です。ブラックジョークは非常に高度なテクニックが必要で、芸人さんたちを見習ったほうがいい。危なそうなポイントに話が来たら、詳しく縦に掘ろうとせず、話題を横に展開しないといけないんです。失言は基本的にはトーク力、どう語るかが引き起こす問題だと思います」

「レディーゴー」で戦闘状態へ

 ――先日話題になった「高齢…

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2023年6月2日14時0分 投稿
    【視点】

    こんなに嫌な話なのに、一気に最後まで読んでしまう。こんなに嫌な話なのに、読後感はむしろ清々しい。それを可能にしている真梨幸子さんの作品は、現実の世界で言うべきではない言葉をのみ込んでいる私たちがのみ込んでいる言葉(感情)を発散できる場になっ

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    天野千尋
    (映画監督・脚本家)
    2023年6月2日17時59分 投稿
    【視点】

    「言葉を飲み込んでいるストレス」もあるとは思いますが、実は「遠くの言葉が聞こえてしまうストレス」が大きいのではないでしょうか。 昔は「遠くに言葉を届けられる人」は著名人などに限られていて、私たちは今ほど知らない人の言葉を聞くことはなかった。

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