「好き」と言ったら世界が変わった 龍本弥生がみた推し武道のリアル

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構成・阪本輝昭
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NMB48のレッツ・スタディー!番外編 龍本弥生の推し武道③

 平尾アウリさんの漫画「推しが武道館いってくれたら死ぬ」(通称「推し武道」、徳間書店)。地下アイドルグループ「ChamJam」(愛称「ちゃむ」)メンバーの市井舞菜と、彼女を熱心に推すファン「えりぴよ」を軸とした物語だ。 「推し武道」愛読者でもあるNMB48の龍本弥生さん(18)が、作品の魅力を読み解くコラム「龍本弥生の推し武道」の第3回。

 今回は「好き」という言葉について考えてみたいと思います。

 「推し武道」では、えりぴよさんが舞菜ちゃんに向かって「好き」と伝える場面が何回も出てきます。ときに照れながらだったり、ときに真顔だったり、えりぴよさんが「好き」と言葉にする際のテンションや勢いにはいろんなパターンがあります。握手会でのわずか5秒間で、舞菜ちゃんの好きなポイントを全部言い尽くそうと早口でまくし立てるシーン(第12話)には爆笑してしまいました。

 「好き」は、推し武道を語るうえで、とても大事なキーワードです。

 同じ12話で、ちゃむのメンバー・松山空音ちゃんが、センターの五十嵐れおちゃんにこう語りかける場面があります。

 「結局さあ 好きって言ってくれる人のこと好きになるよね 恋愛とかとは別ものでもさ」

 これに対して、れおちゃんは空音ちゃんの顔をみて「空音 好きよ」と返します。

 「れおはみんなのことが好きなくせに~」と、空音ちゃんは軽くあしらいますが、ほおは少し赤らんでいます。

「好きって言葉はすごいんだよ」 れおちゃんが語った意味

 私もアイドルをしているので、ファンの方々とはオンラインお話し会や握手会などで直接話をする機会が多々あります。だから、ファンの方々から「好き」と言ってもらうのには慣れているでしょ、と思われるかも知れませんが、実はそうでもないのです。

 ファンの方々は「推してるよ」「すてきだね」「かわいい」といった言葉を選んで気持ちを伝えてくださることが多いです。とてもうれしいです。

 そんな中でも、「好きだよ」という言葉だけは、ちょっと特別な重みがあるというか、口にするにはそれなりの勇気がいるというのか、いずれにしても頻出の言葉ではありません。だからこそ、「好き」を言ってもらえると私も格別うれしいし、そうやって伝えてくれた勇気にありがとう、と思います。

 最新の第53話では、れおちゃんが自分のファンである「くまさ」さんに、「好き」という言葉の力について語る場面があります。

 「好きって言葉はすごいんだよ くまささんが言ってくれたから それを知れたんだよ」

 はっとさせられるところがありました。きっと、れおちゃんは「好き」という言葉がもつ力を知っているからこそ、自分が受け取るだけじゃなくて、意識してほかの人にも伝えるようにしていたのかなあ、と。

私も「好き」と言ってみた

 私は恥ずかしがり屋なので、面と向かって誰かに「好き」というのにはためらいがありました。「かわいい~」「おしゃれ~」「大好き~!」といった言葉なら、メンバー同士でもよくかけ合うし、あいさつみたいなものなんですが……。「好き」という言葉だけは、やっぱりちょっと気恥ずかしい。

 勇気をふるって、私もれおちゃんのように「好き」を言葉に出していったら、何かが変わるかな。そう思って、NMB48の先輩や同期に、「好き」を伝えてみました。

 まずはロケで一緒になった貞野遥香さん。

 私のあこがれの先輩です。「好きです」と伝えたら、「あはは~」と照れ笑いされ、「どんなところが?」と聞き返されました。私が遥香さんの好きなポイントをいくつか挙げると、遥香さんは「いやあ、そんなぁ……」と謙遜モードに……。こんなに照れる遥香さんを見たことがなかったので、新鮮だったし、胸がキュンとなりました。

 続いて松野美桜ちゃん(愛称・みおち)。

 同じ8期生です。こっちは同期で、常に一緒にいる仲間だということもあり、より気安く「好き」を言えると思ったのですが……。

 二人で電車に乗っていました。いつ、どのタイミングで言おうかと考えると鼓動が速まり、変に汗もかいて、「告白する前の心境ってこんな感じなのかな」と緊張しました。

 タイミングをはかって、なるべくさりげなく、「みおち、好き」と言いました。

 みおちは「ええーっ!?」と驚き、私の顔をまじまじと見たので、数秒間、黙って見つめ合うようなかっこうになりました。

 しばらくたって、「私も好きだよ」。それがみおちの返事でした。私もなんとなく幸せな気持ちになり、二人で顔を赤くしたまま電車に揺られました。

 その言葉を口にしたことで、遥香さんとみおちのことを一層好きになった気がするし、お互いの距離もさらに近づいた気がします。

 好きって言葉はすごいんだよ――。

 れおちゃんが言っていた通りでした。

「好き」を受け取り、「好き」を返す

 アイドルという世界は、「好き」を受け取り、「好き」を返す仕事だなあと感じます。

 みおちが勇気を出して「私も好きだよ」と答えてくれたように、私もファンの方々から「好き」と言ってもらえたとき、「ありがとう。私も好きだよ」とお伝えしています。

 ファンの方々から、もっともっとたくさんの「好き」を受け取れるように。

 私からは、それよりももっと多くの「好き」を、ファンお一人おひとりにお返しできるように。

 そんなことを考える昨今です。(構成・阪本輝昭)

誰にとっても、特別な言葉かも… COMICリュウ・猪飼幹太編集長

 現役アイドルの方が「推し武道」のワンシーンに触発されて、「好き」という言葉を先輩や同期のメンバーに伝えてくれた……。

 その奇跡のような事実に心震えました!

 しかもそのときの会話やシチュエーションが、どちらもほほ笑ましくも美しすぎる!!

 良いお話を教えていただきました…。

 「好き」とファンの方から言われることが意外と少ない……というお話も貴重でした。

 アイドルの方なら日常的に言われ慣れているのかな……とついつい思ってしまいます。

 「好き」という言葉は、それくらい誰にとっても特別な言葉だということかもしれません。

 平尾アウリさんも作中で「好き」という言葉を使うタイミングについては、繊細な配慮をしていると思います。

 そんな「推し武道」のなかの「好き」が、龍本さんや多くの読者の方の心に残る言葉になってくれているとしたら。本当にうれしいことです。

     ◇

 いかい・みきお 漫画編集者。1968年生まれ。89年、まんが情報誌「ぱふ」スタッフとなり、93年から10年間、編集長を務める。その後、少年画報社「ヤングキングOURS」編集部、一迅社「コミックREX」編集部を経て、2006年、徳間書店「COMICリュウ」創刊からスタッフとして参加。11年から副編集長、18年からは編集長を務める。主な担当作品は「モンスター娘のいる日常」「推しが武道館いってくれたら死ぬ」「アリスと蔵六」「セントールの悩み」「壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている」など多数。

「推し武道」映画も全国公開中

 「推しが武道館いってくれた…

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