やる気出ない・日中ぼんやり・ミスばかり ADHD脳とのつきあい方
「仕事行く時間だけど、行きたくないなあ」「ご飯作るの、めんどくさい」……。なんだかやる気が出なくて、ぼんやりしていたい日ってありますか?
そんなぼんやりな頭のままでも、なんとか出社して仕事したり、家事をしたりしていたのに、「ああ、またケアレスミスをしてしまった」「卵を床に落として割っちゃった」……。こんなことがあると、泣きたい気持ちになりますよね。
このエピソードは全てリョウさん(仮名)のお話です。ADHD診断を受けた40代の女性です。今回は、ADHDの方の「ぼんやりとした脳」との付き合い方を考えます。
ぼんやりとした脳、どのタイプ?
ADHDの方の脳は、ぼんやりして、やる気を出しにくいことがわかっています。
やる気を出しにくいだけでなく、集中力が落ちた状態で仕事や家事をするわけですから、どうしてもミスが起こりがちなのです。
「ケアレスミスがひどすぎて職場で注意ばかり受けている」
「度重なる失敗で周囲に迷惑をかけているのがつらくて自分から仕事をやめる」
といった話をよく聞きます。
こうしたADHDのぼんやりとした脳との付き合い方についていくつか推奨されている方法をご紹介します。
(1) もっと楽しいことをしたくて寝たくないタイプ→よく寝ましょう
(2) 寝ているのに、日中の眠気がすごい→睡眠外来へ
(3) 睡眠は十分足りているのに、やる気が出ない→ADHD治療薬も視野に入れて
(4) 現実逃避からの過眠に陥っているなら→起きざるを得ない状況を作る
それぞれ解説します。
(1)もっと楽しいことをしたくて寝たくないタイプ
このタイプは、1日にやりたいことがたくさんあふれていて、24時間という枠に入りきらないほどやろうとします。そのため睡眠時間が削られているのです。
リョウさんは、最近カフェラテアートにハマっていて、それに夢中で夕ご飯が終わるとずっと練習しています。気づけば夜中の2時です! 翌日は起きるのがしんどいし、仕事ではミスが続出です。
ADHDの方の困りごとのほとんどは、脳の実行機能という高度なはたらきに由来します。ですから、睡眠不足は天敵です。脳をよく休めておくことが大事です。
起きている時間をご機嫌に最大限に楽しむためにも、睡眠時間は確保しましょう。
(2) 寝ているのに、日中の眠気がすごい
中には、1日8時間ほど寝ているのに、日中昼寝をしないともたないほど眠たがる人がいます。背景にはさまざまな睡眠障害が隠れているかもしれません。一度、睡眠が専門の病院を受診しましょう。
ADHDでは睡眠の問題が多く、ADHDの25~55%に何らかの睡眠の問題がみられる(Corkumら、1998)と言われています。背景に、ADHDだけでなく、睡眠時無呼吸症(特に閉塞〈へいそく〉性睡眠時無呼吸症)や、じっと座ったり横になったりすると足などがむずむずして睡眠の妨げになるむずむず脚症候群、睡眠時間帯が社会生活上望ましい時間帯からずれてしまう概日リズム睡眠障害などが見つかることもあります。こうした睡眠障害がADHDのような症状を引き起こしている場合や悪化させている場合もあります。
眠りの質が上がれば、解決する眠気もあるかもしれません。
(3) 睡眠は十分足りているのに、やる気が出ない
睡眠時間は十分確保していて、昼寝するほどの眠気もないのに、とにかくやる気が出なくて、ミスも多くて……という場合には、ADHD治療薬の服薬を主治医に相談してみましょう。
リョウさんは、調子の悪い日にパート先で資料に目を通していると、「文字情報」として目が認識しながらも、文章の意味として頭に入ってこなくなります。結果、仕事に時間がかかるし、すぐに疲れます。
しかし、病院で薬を処方してもらってからは、以前よりうんと集中できるようになりました。
効果の個人差は大きいですが、体質に合えば、「おかげで仕事に集中できるようになった」「かったるいかんじがなくなった」「ミスが減った」という声もききます。
ADHD治療薬といっても複数の種類があり、作用も全く異なります。国際的な治療ガイドラインでは、症状が重く日常生活に支障をきたしている場合には、薬物療法が推奨されています(たとえばイギリスのNICEや、カナダのCADDRA)。主治医に相談してみましょう。
(4) 現実逃避からの過眠に陥っているなら
これまでご紹介したどの三つにも当てはまらず、眠気もないけれど布団から出られないという人もいます。よく聞いてみると、「起きてしまうと、掃除や洗濯をしなければならなくて嫌だから布団にいる」とか、「ほんとは休みの日なんだけど、仕事しないと間に合わなくて。でもそんなのしたくないから、布団でスマホをいじりながら現実逃避」などの実態がわかってきました。現実逃避としての過眠です。
リョウさんは休みの日がまさにそれです。休みの日に限って早く起きる娘が、朝8時には「おなかすいたー」と言います。夫がご飯を作っている間も、リョウさんは目を覚ましていますが、布団の中でスマホをいじっています。
リョウ「あーあ、なんにもしたくないよー。でも洗濯しなくちゃ」
個人的にはこのぐらいの現実逃避は、ありなんじゃないかと思いますが(骨休めにもなりますよね)、休みの日のほとんどをそんなふうに費やしていて、全く疲れがとれないかんじならば、改善を目指してもいいでしょう。
寝起きの意志の力は頼りないので、「起きざるを得ない状況」を作るのはどうでしょうか。
リョウ「土日ともこんなかんじじゃ、さすがにむなしいな。よし、日曜は美容室予約しようかな」
朝10時から美容室を予約しました。これで、もう朝ダラダラできません。楽しみな美容室のためなら、洗濯も苦になりません。
いかがでしょうか? 当てはまるものはありましたか?
ぼんやりしてしまう自分を責めて、無理やり気合を入れようとするよりは、原因を明らかにして、対処していくとラクですよ。
(引用文献)
・P.Corkum,R.Tannock,H.Moldofsky.(1998). Sleep disturbances in children with attention-deficit/hyperactivity disorder. Journal of the American Academy of Child&Adolescent Psychiatry, 37,637-646.DOI:10.1097/00004583-199806000-00014
・National Institute for Health and Care Excellence.(2018). Attention deficit hyperactivity disorder: the NICE guidelines on diagnosis and management of ADHD in children, young people and adults. London : National Institute for Health and Care Excellence.
・CADDRA: The Canadian・Attention Deficit Hyperactivity Disorder Resource Alliance. (2018). Canadian ADHD practice guidelines.
<https://www.caddra.ca/wp-content/uploads/CADDRA-Guidelines-4th-Edition_-Feb2018.pdf>
◇
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- 中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
- 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。