原子力基本法の改正案は「新しい安全神話の種」 法学者が語る問題点

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聞き手・佐々木凌
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 原発の60年超運転を可能にする束ね法案には、原子力基本法の改正案が含まれている。原子力基本法の改正案は国会審議でも論点となった。何が問題なのか。東京経済大の礒野弥生名誉教授(法学)に聞いた。

 ――原子力基本法とはどんな法律ですか。

 「原子力の利用を平和目的に限定し、『自主、民主、公開』の三原則を掲げたもので、『原子力の憲法』とも言われる存在です。1955年に議員立法としてつくられました」

 「日本は基本法制の国です。分野ごとに基本法をつくってその分野の考え方や枠組みを整理し、その下に一般の法律を置く。普通の法律以上に基本法の改正はじっくり議論されるべきです。今回は正面からの議論がほとんどないまま、束ね法案として、60年超運転をできるようにする正当化に原子力基本法の改正が使われており、問題です」

 ――もともと、原子力の推進のための法律なのでは?

 「確かに、原子力の平和利用、特に原発の普及が目的ではありました。ただ、当時はまだ戦後10年。原爆によって多くの犠牲者が出た記憶から、世論は原子力に拒否感がありました。その中でどうしたら原子力の研究や利用の推進ができるかを考えたときに出てきたのが、利用には一定の歯止めが必要だという考え方です。原子力基本法は利用の条件を定めた法律であり、いわばおずおずとした推進です」

 「その後も、安全性を重視する改正がたびたびありました。たとえば、原子力船『むつ』の放射線漏れ事故を機に、『安全の確保を旨として』の文言が追加され、原子力安全委員会が創設されました。2011年の東京電力福島第一原発事故の後は、安全性確保の目的が『国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資すること』と明文化され、原子力規制委員会の設置が盛り込まれました」

 「一方で、今回の改正案は、原発を脱炭素に欠かせないとして積極的に推進していく立場が明白で、大きな方針転換です」

 ――なぜ政府は今回、束ね法案に原子力基本法の改正を含めたのでしょうか。

礒野さんが、今回の改正案の中で「新しい安全神話の種」と感じた部分とは?

 「一つは、原発の60年超運…

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