「戦争童話集」絵本化の黒田征太郎さん 野坂昭如さんは兄貴だった
1994年、ふらりと立ち寄った米ニューヨークの書店で出合った一冊の本が、黒田征太郎さん(84)のその後の人生を変えた。
野坂昭如さんの「戦争童話集」。「小さい潜水艦に恋をしたでかすぎるクジラの話」など12話の短編が収められている。戦争に翻弄(ほんろう)され、命を奪われる庶民や兵士、動物たちが主人公だ。
何度も読み返し、こう思った。「戦争は敵味方も関係なく、弱い者に犠牲を強いる。この本は、命について語っているのだ。作品の良さを自分の絵でより多くの人に伝えられたら、という気持ちにかられた。泥沼にはまった感じでした」
「絵本にしたい」と出版社に話を持ちかけるも、「無理です。『戦争童話集』は売れていないので」とつれない対応。黒田さんの心に火が付いた。
すぐに野坂さんから絵本化の許可をもらい、出版にこぎつけた。黒田さんの絵は、戦争童話集に新たな命を吹き込んだ。
野坂さんに初めて会ったのは、半世紀以上前のことだった。
新橋の屋台で1人で飲んでいたら、朝日新聞で働いているという人に声をかけられた。「週刊朝日で野坂さんの連載が始まる。挿絵を描いてくれる無名の人を探している」
チャンスとみた黒田さんは、たくさん絵を描いて編集部に送った。しばらくして「君でいく」との返事があった。後日、レストランで編集者と緊張しながら待っていると、酔った様子の野坂さんが来た。座るなり「ウイスキーオンザロック、ダブル」。
黒田さんはそれを聞き、「僕と合いそうだな」と一安心した。あとは覚えていない。気付いたら一緒に酔っ払って銀座を歩いていた。
「野坂さんとは最初から遠慮…
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