藤井七冠、偉業達成してもいつも通り 最年少名人の瞬間は異例の対応

北野新太
【動画】新名人誕生の瞬間、喜びに包まれる地元、藤井名人のインタビュー
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 将棋の藤井聡太竜王が1日、第81期名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)で渡辺明名人(39)に勝って名人位を奪取し、史上2人目の七冠も達成した。

 14歳2カ月の史上最年少棋士になった少年は6年後、20歳10カ月の史上最年少名人になった。1日夜、偉業をたたえる声が各地であふれたが、新名人は普段と変わらず。静かに喜びを語った。

 幼い頃から夢見た二文字を手に入れた瞬間も笑わなかった。

 終局直後。心境を聞かれた藤井聡太新名人は、数秒考えた後に「まだ実感はないですが、非常にうれしいです。とても重みのあるタイトルだと思うので、今後ふさわしい将棋を指さなければという思いです」と言った。失冠した渡辺明名人への配慮もあるのだろう。最善手を探すような視線で盤上を見つめた。

 午後6時53分、名人が投了を告げると、対局室の外で待機していた27社57人の報道陣が殺到した。12畳半の和室では収容不能のため、交代で撮影に入る異例の対応に。運命めいた名を持つ対局場「藤井荘」の一室は熱気に包まれたが、藤井新名人は淡々とした口調で語り続けた。

 2016年10月、史上最年少となる14歳2カ月での四段昇段、同年12月の62歳差の加藤一二三九段からのデビュー戦勝利、17年6月に不敗のまま記録した史上最多の29連勝、20年7月の棋聖戦での史上最年少タイトル奪取。いずれも、あの一局で負けていたらという分岐点はあったが、運命の勝負を必ず制して伝説を続けた。

 今回も敗退すれば史上最年少記録の更新機会を失うシリーズだった。渡辺名人は経験値を問う力戦を主導して全5局を戦ったが、挑戦者は未知の局面にも乱れなかった。

 今も表情にあどけなさを残す20歳。謙虚な姿勢を貫き、他者への敬意を忘れず、いつも穏やかに笑っている。江戸時代から400年以上続いている名人の歴史に、これから新しい名人像を描いていく。

 局後の取材が終わって感想戦が始まると、ようやく笑みがこぼれた。名人になった喜びがあふれたのではない。最高の相手と難解な局面について語り合える時間が何よりもうれしかったのだ。(北野新太)

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