母子の安全網となる「内密出産」 追い詰められた女性守る仕組み急げ
記者解説 文化部(元熊本総局)・堀越理菜
妊娠を誰にも告げられずに追い詰められている女性たちが、この日本にいる。母子ともに危険な孤立出産を避けるため、匿名でも病院が受け入れる「内密出産」の仕組みがある。熊本市の慈恵病院が唯一、実施している。2022年2月に初めてのケースが公表され、今年1月までに9人生まれた。
10代の女性が慈恵病院の担当者も同席して取材に応じ、事情や子どもへの思いなどを話してくれた。親から虐待を受けて育ったという。交際相手に妊娠を伝えると連絡がつかなくなり、中絶も考えた。相談した病院などでは親に伝えることを勧められたが、とうていできなかった。おなかの赤ちゃんと一緒に死のうと思ったこともあった。内密出産のことをネットで調べ、慈恵病院の窓口に匿名で電話した。親には伝えず、飛行機で熊本に向かった。ほかに選択肢はなかったと振り返る。
自分の身元は入院中に、病院の蓮田真琴・新生児相談室長にだけ明かした。身分証のコピーは病院で厳重に保管し、子どもが将来、知りたくなった時に開示できるようになっている。
病院は女性が自分で育てるために利用できる制度について説明してくれたという。親と戸籍を分ける方法も提案されたが、気づかれるのが怖くできないと思った。病院に赤ちゃんを委ね地元に戻ってからも、蓮田室長と連絡を取り続けている。
病院は本人の意向を尊重し、対応している。育てられない場合は児童相談所に保護され、乳児院に預けられる。戸籍は地元自治体がつくり、特別養子縁組を前提とする養育などが想定される。内密出産してから気持ちが変わり、身元を明かして自分で育てることを選ぶ女性もいる。その場合は病院や行政が養育環境などを支援している。
ポイント
病院の担当者だけに身元を明かす内密出産が公になってから約1年で9人が生まれた。ドイツでは法制化され多くの病院が受け入れているが、日本では広がっていない。母子にとって「最後のとりで」となっており、匿名性を守る配慮や仕組みが必要だ。
蓮田室長は「女性が選択を誰…