生乳を捨てるぐらいなら、アイスを作る――。
千葉県野田市の酪農家、知久久利子さん(53)は昨年、イタリア製のジェラート製造機械を買った。数千万円の投資だったが、「次世代に酪農を残せるなら」と決めた。
知久さんが営む知久牧場では、ホルスタイン種やジャージー種の乳牛計130頭を飼い、牛乳の元となる生乳を1日2トンほど出荷している。コロナ禍で給食の牛乳の提供がなくなった時は、生乳を捨てなきゃいけないのか、と不安だった。全国では北海道などで搾ったばかりの生乳を捨てていた。知久さんは、「今後、捨てる牛乳が出るぐらいなら、アイスに」とジェラート作りを思い立った。
ジェラート作りに導入した殺菌用の機械を使えば、自前のジャージー種の生乳を低温殺菌できることも分かり、風味を生かした牛乳として売ることもできる。低温殺菌した牛乳は、近くのケーキ屋に卸すことにした。
2月からインターネット通販でジェラートを売り出した。大量に売れるわけではないが、「おいしいね」という言葉がなによりうれしいという。「乳を搾って乳業メーカーに出荷する毎日では、消費者の顔が見えにくい。声が聞こえると、酪農をやって良かったというモチベーションにつながる」
昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、飼料(エサ)代の高騰が続き、経営は厳しい。日量約2トンの生乳を搾り、月の売り上げは約600万円だ。トウモロコシなどが原料の配合飼料は3割以上値上がりした。千葉県産の飼料用米を細かく砕いたものや、愛知県の会社から買うもやしかすを混ぜるなど、エサの国産化率を高める工夫もするが、毎月の支払いは300万円にのぼる。さらに、搾乳に不可欠な電気代は倍以上に跳ね上がった。人件費を入れれば「収支はかつかつ」という。
それでも酪農をやめずにこら…
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