藤井新名人の8六桂に「おしゃれ」の声 解説棋士は「美しい投了図」

西田理人 照井琢見
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 将棋の藤井聡太竜王が1日、第81期名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)で渡辺明名人(39)に勝って名人位を奪取し、史上2人目の七冠も達成した。

 歴史的な瞬間を見届けたい――。中継映像を前に将棋ファンたちは、一手一手を見守った。

 「おしゃれ!」

 東京・高田馬場の「将棋カフェCOBIN(コビン)」では終局間際、将棋ファンらが驚きの声を上げた。藤井聡太新名人が92手目に繰り出した「8六桂」に、常連客の男子大学生(23)は「ひねりのきいた美しい一手。AIを超えている」とため息を漏らした。その3手後に渡辺明名人が投了すると、「やっぱり圧倒的に強いですね」。

 常連客らと戦況を見守った店長の奈良翔太朗さん(37)も、新名人奪取には「むしろ驚きはない」と語った。「最年少名人になるのが自然というか、そう思うくらいの強さがあった。今後どれだけ防衛できるのか、誰がタイトルを奪取するのか、すでにそれが気になっています」

 「歴史的な瞬間だから」とスクリーンを背景に店内で友人と記念写真を撮っていたのは、公務員の舛谷洋幸さん(35)。将棋については「ほぼ素人」だが、藤井聡太新名人が優勢と聞いて、午後6時過ぎに店にやってきた。「この瞬間を分かち合えてうれしいです。偉業を成し遂げたのに、藤井さんは全く表情が変わらない。こういうところがやっぱり常人離れしていますよね」と興奮気味に話していた。

 関西将棋会館道場(大阪市福島区)の大盤解説会でも、藤井新名人の勝利が決まった瞬間、詰めかけた将棋ファン約60人から一斉に拍手が起こった。

 解説を務めた斎藤慎太郎八段(30)は「美しい投了図ですよね」と、かみしめるように話した。昨年の名人戦で渡辺名人に挑んだ斎藤八段。今年は藤井新名人と挑戦権を争った。「タイトル戦は無敗でここまで到達。恐ろしいほど素晴らしい結果を残された」と新名人をたたえた。

 ライバルとして藤井新名人との向き合い方を問われると、「完成に近づいていると思います。ただ、今度は私たちが粘る番」と前を向いた。

 同じく解説に立った藤井奈々女流初段(25)も、「厳しいスケジュールのなかで、完璧な内容でタイトルを獲得された。(藤井新名人は)どういう景色を見ているのかと思います」と興奮気味に語った。

 解説会には子どもの参加者も。食い入るように見つめていた大阪市の小学4年、野見山貴行さん(9)は、「思い通りの手もあれば、思いがけない手も。いい勝負だった」と話した。 1年生の頃から福岡の将棋道場に通いこの春、大阪に越してきた。初めて参加した大盤解説会で見た、40年ぶりの快挙に「40年前といえば、お母さんが僕と同じ年のころ。めっちゃすごい」。歴史的な一戦に刺激を受け、「僕もたくさん練習して、強くなりたい」と意気込んだ。(西田理人、照井琢見)

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