10メートル「離れすぎ」 岸田首相襲撃、報告書ににじむジレンマ

国方萌乃 寺沢尚晃 伊藤秀樹
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 和歌山市の選挙演説会場で岸田文雄首相のそばに爆発物が投げこまれた事件で、警察庁が1日、当時の警護態勢を検証した報告書を公表した。事前の協議からは、首相の安全を確保したい警察と、市民との近さを演出したい主催者側とのジレンマが浮かんだ。

 事件は4月15日、雑賀崎漁港でおきた。

 報告書によると、自民党県連の関係者と漁協関係者の「主催者側」立ち会いのもと、県警の警察官が会場となった漁港を確認したのは事件の3日前。主催者側から当日の流れや首相の動線に加え、来場者が「漁協関係者とその家族らに限られる」との説明を受けたという。

 県警は、聴衆が飛び出すことなどに備えて首相と聴衆の間に10メートル以上の距離をとるよう求めた。これに対し、主催者側は「聴衆までの距離が離れすぎる」「聴衆エリアが狭くなる」と難色を示したとされる。当日は、漁協関係者がスタッフとして来場者が関係者かどうか判断するなどと説明を受け、5メートルで折り合ったという。

手荷物検査に金属探知機「選挙にならん」

 県警は、関係者以外が聴衆エリアに入るのを防ぐため受付をもうけることを要請した。金属探知機での検査も求めた。どちらも実現しなかった。主催者側の説明では、来場者は「漁協関係者とその家族らに限られる」はずだったからだ。

 「手荷物検査とか金属探知機とか、そんなんしたら誰も聞きにきてくれへんやん。選挙にならん」

 今回の事件を受けて、県連幹部のひとりは言う。

 ある県議は「TPOとか現実に即して、いざというときに行動するのが警備でしょ。僕ら政治家ですからね」と語った。

 漁協の幹部は「岸田さんが来ることをうちからは発表してない。漁協関係者以外が来ることは想像していなかった」と言う。この幹部は、来場者が関係者かどうか自分たちが判断しなければいけないという認識はなかったという。

 「応援に来てくれてると思ってるんや。警察官とちゃうのに、お前来んな、お前来いとは言われへん」

 報告書では事前の打ち合わせについて「実効的な安全対策が実施されるよう綿密な協議を行う必要があった」と分析している。

 公表を受け県警は1日夕、「今回の報告書の内容を真摯(しんし)に受け止め、今後とも警護対象者及び聴衆の更なる安全確保に向けて、主催者等と連携しながら、警護の実施に万全を期してまいりたい」とのコメントを出した。(国方萌乃、寺沢尚晃、伊藤秀樹)

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