衆院選山口、「城」明け渡すのは誰か 自民の調整難航、いらだつ県連

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大室一也 青瀬健 水田道雄 森岡航平
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 次の衆院選で県内の選挙区が1減となる山口県。衆院解散の可能性が取り沙汰される中、県内の4議席を独占している自民党の候補者調整が難航している。焦点となっている新3区は、現3区の林芳正外相(62)が立候補の意思を示しているとされるが、安倍晋三元首相の後継として4月の4区補選で議席を得た吉田真次氏(38)側も巻き返しの動きを見せている。派閥の論理も絡み、決着の道筋が見通せない状況が続いている。

 5月31日、吉田氏と安倍氏の妻の昭恵氏の2人が自民党本部に連れ立って姿を見せた。安倍派の会長代理を務める塩谷立下村博文両氏に伴われ、茂木敏充幹事長ら党幹部に面会した。

 主な用向きは安倍氏の「一周忌法要の案内」だが、同席者によると吉田氏を新3区の候補とするよう、安倍派側から党幹部に要請したという。補選で吉田氏を全面的に支援した昭恵氏も「主人の後、選挙区を吉田さんに継いでほしい」と重ねて要望。これに対して、茂木幹事長は「県連の意向を尊重しながらやっていきたい」と応じたという。

 また、その場で昭恵氏が吉田氏の後援会長に就任することが党幹部に報告されたという。吉田氏周辺は「『安倍』の推進力があるというのは大きい」として、新3区問題の調整で吉田氏に有利に働くことを期待する。

 県内の自民関係者の間に波紋を広げた昭恵氏らの「直談判」。背景には吉田氏側の危機感がある。

 衆院選挙区の「10増10減」に伴い、県内の選挙区は次の選挙で4から3に減る。自民の4現職の1人は小選挙区という「城」を明け渡すことになる。

 県連の関係者によると、県連幹部は4氏から次期衆院選についての意向を聞き、県連への「一任取り付け」を働き掛けてきた。ただ、吉田氏は自身が小選挙区を離れて比例区に回るシナリオを懸念したためか、「一任」を拒否したという。

「林氏は外れないだろう」自信の後援会幹部

 安倍氏が当選を重ね、吉田氏が後継となった現4区(下関市長門市)に、林氏が議席を持つ現3区の一部(萩市、山陽小野田市など)が加わるのが新3区。ここが調整の焦点となっている。

 参院議員だった林氏は2021年の衆院選で3区にくら替えを果たしたが、出身は下関市。父の義郎氏ら代々、同市を拠点とし、同市を含む選挙区からの立候補は林氏の「念願」とされる。

 5月27日、地元入りした林氏は、新3区に入る山陽小野田市での神社の祭り会場を訪れた。あいさつで選挙の話にふれることはなかった。この問題をめぐって林氏や周辺に目立った動きは見られないが、閣僚を歴任し、県内で「山口県9人目の首相」を期待する声も上がる中、後援会幹部は「林氏が小選挙区から外れることはないだろう」と自信を見せる。

 一方、下関市議だった吉田氏は、安倍氏の後継として4月の4区補選に出た。4区内でも知名度は低く、次の選挙までの「ショートリリーフ」との見方もされたが、ここまで矛を収める様子はない。安倍後援会の幹部や一部の下関市議は「安倍氏の後継として引き続き(小選挙区で)出るべきだ」と吉田氏を支える構えだ。

 現1区(山口市など)の高村正大氏(52)は祖父以来の地盤の周南市が新2区に移るものの県央部をまたぐ新1区へ、現2区(岩国市など)の4月の補選で父親の岸信夫防衛相の後継として初当選した信千世氏(32)は新2区へ、の流れとされるが、新3区の調整いかんでは「玉突き」になる可能性はあり、支援者らの懸念は残る。

 今月4日、会長や4役など新体制を正式に決める県連大会が開かれるが、県連幹部の一人は「大会まで動きはない」と話す。

■「派閥の力学」で調整困難に…

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    前田直人
    (朝日新聞デジタル事業担当補佐)
    2023年6月2日14時41分 投稿
    【視点】

    こうした候補者調整でよく使う手は、1人を比例区に回すこと。しかし、政治家はやはり選挙区という地盤を持つことにこだわるし、比例区の当選枠を食うことになるため、ほかの候補者の当選確率にも影響します。基本的には党本部に決定権がありますが、最後まで

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